エクレール

お菓子放浪記

2011/05/09 京橋テアトル試写室
お菓子への憧れを胸に戦中戦後を生き抜いた少年の物語。
テーマ曲「お菓子と娘」が耳から離れない。by K. Hattori

Ekureru  小説家の西村滋が自らの体験を綴った小説「お菓子放浪記」を、『ふみ子の海』の近藤明男監督が脚色演出した戦中戦後の物語。物語は昭和18年から始まる。親の愛情をほとんど知らずに感化院をを出入りしているアキオだったが、空腹のあまり菓子を盗んだ自分に菓子パンを食べさせてくれた遠藤刑事や、感化院で出会った陽子先生など何人かの大人たちの優しさに触れることで素直にまっすぐ育っていく。野田フサノという老婆に養子として引き取られたアキオは生まれて初めて「家族」を持てた嬉しさから懸命に働くが、不注意からケガをした彼をフサノが捨てようとしていることを知り家を飛び出していく。間もなく旅芸人の一座に混ざり東北地方を旅するが、戦争の中でこの一座も解散。食うや食わず出東京に戻ってきたアキオを迎えたのは、彼に愛情をかけてくれた遠藤夫妻は空襲でなくなり、働いていた映画館も丸焼け。フサノの家に行けば泥棒呼ばわりされ、陽子先生の嫁ぎ先である広島は原爆で全滅してしまった。その直後の終戦。アキオは焼け跡で知り合った戦争孤児たちと一緒に、戦後の日本を生き抜いていくことを決意するのだった。

 映画の舞台になっているのは、主人公が旅役者に付いて回るシーン以外ほとんどが戦中戦後の東京なのだが、東京在住の人間から観るとほとんど東京らしいニオイが感じられなかったのは残念。戦前戦中の東京など僕はもちろん知らないし、戦前と戦後の高度経済期以降は街並みもすっかり替わってしまっている。それでも映画に出てくる「戦中戦後の風景」は、同じ戦中戦後にしても、どこかの地方都市にしか見えないのだ。(映画は東北地方でロケしている。)このあたりの時代色がもう少し出るとよかったのだが。

 物語自体は悪くないと思ったのだが、映画の最後の最後になって「この少年はいったい何歳なのだ?」ということがひどく気になってしまった。演じている吉井一肇くんは撮影中に11歳ぐらいのはずだが、映画の中のアキオ少年はそれより年齢が上に設定されているようだ。(例えば当時小学校は国民学校と呼ばれて義務教育だが、彼は感化院でも養子先でも学校に通っている描写がない。)となれば劇中のアキオ少年がまだ幼い子供として描かれているのは、主人公アキオの内なる「少年の心」の代弁者として、彼を少年の姿で描くという演出なのだろうか。ちなみに原作者の西村滋さんは1925年生まれで、終戦の年に二十歳になっている。それならそれで、映画の最後に出てくるエピソードも「なるほど」ということになるのだが、主人公の実年齢を示す描写がそれまで映画の中にひとつも出てこないので、映画の最後になって「アレレ?」ということになるのだ。この最後のエピソードは不要だったか、別の作り方があってもよかったように思う。

 全体としてはそう悪くない映画だが、最後に頭の中が「???」で埋まってしまったのが残念。

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5月21日公開予定 テアトル新宿ほか全国順次ロードショー
配給:『エクレール・お菓子放浪記』全国配給委員会、マジックアワー
2011年|1時間45分|日本|カラー|ビスタ
関連ホームページ:http://www.eclair-okashi.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:エクレール お菓子放浪記
原作:お菓子放浪記(西村滋)
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