ピュ〜ぴる

2011/01/14 サムライシアター新宿
現代美術家ピュ〜ぴるを取材したドキュメンタリー映画。
フリーターが世界的アーティストへ。by K. Hattori

Pyupiru  現代美術作家のピュ〜ぴるを、まだ全く無名だった2001年から、アーティストとして認知されるようになった2008年まで密着取材しているドキュメンタリー映画。監督をした松永大司は、もともと『ウォーターボーイズ』などに出演していた俳優で、ピュ〜ぴるとはクラブなどでたむろする夜遊び仲間だったらしい。それがピュ〜ぴる本人に声をかけられて、彼の生活や作品制作の過程を撮り始めるようになる。最初は映画にするつもりなどまるでなかったそうだが、撮影中にピュ〜ぴるがアーティストとしての才能を開花させていくことで、結果としてこれは、ひとりの無名の青年が、世界的な現代美術作家へと変貌して行く姿を記録したドキュメンタリーになった。この間に、ピュ〜ぴるは去勢や性適合手術を受けて、男性から女性へと性転換する。こんな劇的なことが、カメラの前で実際に起きてしまうのだからドキュメンタリー映画は面白い。

 社会的に完全に無名の存在だった人が、ドキュメンタリー映画のカメラの前で世界的なアーティストになる映画はこれまでなかったわけでもない。例えば『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』や『ベンダ・ビリリ! 〜もうひとつのキンシャサの奇跡』もそういう映画だろう。しかしこれらはどちらも、映画を作る側に取材対象が有名になるという確信があり、なおかつ彼らを世界に紹介するという仕掛けの中で映画が作られているようなものだった。だがこの『ピュ〜ぴる』は違う。この映画は撮る側も撮られる側も、先行きに何の展望もないまま、ただ何となく撮影を始めた感じがする。2001年のピュ〜ぴるはアーティストになるつもりなどなく、自らの欲求のままにひたすら毛糸を編んで奇っ怪なコスチュームを作っていた。自分自身がゲイだという意識は持ちながらも、将来的に性転換して女性になろうという気持ちなどなかった。しかしこうした状況は、映画の中でどんどん変化して行く。撮影開始時にはまったく考えていなかったことがピュ〜ぴる本人を大きく変え、それを映画はひたすら追いかけていく。

 そんなつもりじゃないのに瓢箪から駒のように映画の中で大変なことが起きるという意味では、これは原一男の『ゆきゆきて、神軍』の衝撃に近いものを感じた。ただし『ゆきゆきて、神軍』の奥崎謙三はカメラ前のパフォーマンスのように自分自身の行動をエスカレートさせて行くのだが、この映画のピュ〜ぴるにそうした要素はない。あくまでも自然体なのだ。映画中盤からはピュ〜ぴるの恋愛がドラマのひとつの核になり、カメラの前でピュ〜ぴるによって語られる恋愛の葛藤と、2005年に横浜トリエンナーレで発表された5万羽の折り鶴を使った巨大オブジェとパフォーマンスが全体のクライマックスになっている。しかしこれは現代美術家ピュ〜ぴるにとってはまだ助走部分。映画はこの後も撮り続けているそうなので、ぜひそれが発表されることを望む。

(原題:Pyuupiru 2001-2008)

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3月26日公開予定 ユーロスペース
配給:マジックアワー
2010年|1時間33分|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.p2001.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:ピュ〜ぴる
関連DVD:松永大司監督
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