赦し

その遙かなる道

2010/10/19 サンプルDVD
連続殺人犯に家族を殺された男による「赦し」の意味とは。
日本未公開の韓国製ドキュメンタリー映画。by K. Hattori

Yueuahipnf  韓国のSBSテレビがクリスマス特番として制作し、その後未公開素材を合わせてドキュメンタリー映画として公開された作品。家族を殺された犯罪被害者の視点から「死刑」という制度を見つめる内容で、韓国のカトリック教会ソウル大教区社会矯正司牧委員会が制作に協力。この映画の映画をたまたま知ったのが、死刑制度の廃止実現を目的とする日本のNGO「死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90」が、韓国SBS局から版権の無償提供を受け、日本語版のDVDが制作されることになった。日本版のナレーターは竹下景子が担当している。この作品はなるべく多くの人に観てもらうため、家庭内での個人の視聴に限定せず、複製コピーと第三者への頒布、公の場での上映、貸与について、有償・無償にかかわらず自由に利用できることになっている。利用にあたって原著作権者や日本語版製作者の了解を取る必要は一切ない。こうした映画の流通形態自体がユニークなものなので、ここに特に明記しておくことにする。(作品に興味のある人は公式ホームページからDVD制作・販売元にご連絡を。)

 映画の主人公になっているのは、コ・ジョンウォンという韓国の中年男性だ。家族は妻と母と一人息子。結婚して独立した娘が二人いる。取り立てて他人様に自慢するような暮らしではないが、日々のささやかな幸福に満足している庶民的な生活。だがその幸せは、ある日突然終わってしまう。彼が仕事を終えて帰宅すると、家の中で妻と母と息子が惨殺されていたのだ。そのあまりのむごたらしさに、警察は家族に恨みを持つ者の犯行と目星を付けて捜査をしたが、1年後に逮捕された犯人はまったく見ず知らずの赤の他人。わずか1年ほどの間に21人もの人間を殺した連続殺人犯、ユ・ヨンチョルによる通り魔的な犯行だったのだ。犯人には死刑判決が下された。しかし韓国は司法制度の上では死刑が残っていても、実際には死刑が執行されない状態が10年続く事実上の死刑廃止国。家族は無残に殺されたのに、犯人は刑務所の塀の向こうでのうのうと生きている。家族3人を殺されたコさんは怒りと絶望と虚しさの中で自殺することを考えたが、やがて「犯人を赦す」ことで自殺を思いとどまることができたのだという。

 犯人を赦し、死刑判決を受けた犯人の助命を願う殺人被害者遺族の存在は、死刑廃止論者たちにとっては都合のいいものだろう。だがこの映画を観た後で、それでも「ほらここに犯人を赦した人がいますよ。皆さんも彼を見習いましょう」と言えるだろうか? それは被害者遺族に対して、あまりにも過酷な要求ではないか? 「赦すこと」はそう簡単ではないし、「赦すこと」で何かが解決するわけでもない。僕はむしろこの映画を観て、死刑制度は被害者のために必要な制度だとすら思った。映画はわかりやすい結論を出さず、明確な方向性も示さない。この映画を観た人は、自分で考えることを求められている。

(英題:Forgiveness, Are You at the End of That Path ?)

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一般劇場未公開 自主上映とDVD配布のみ
日本語版DVD制作・販売元:死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90
2008年|1時間40分|韓国|カラー
関連ホームページ:http://www11.ocn.ne.jp/~grdragon/temp/forgiveness/index.html
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
関連書籍:死刑関連
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