裁判長!ここは懲役4年でどうすか

2010/08/25 京橋テアトル試写室
売れない放送作家がひょんなことから裁判傍聴マニアに。
北尾トロの同名ベストセラーを映画化。by K. Hattori

Saibancho!  裁判所に行って実際の裁判を傍聴し、それを個人的な雑感を交えながらレポートした北尾トロの同名エッセイを、お笑いコンビ「バナナマン」の設楽統主演で映画化した異色の裁判映画。裁判映画はこれまで数多く作られているが、それらの多くは主人公が被告人、裁判官(判事)、弁護士、検事、被告人、証人、被害者や遺族など、裁判に関わる当事者の視点で作られてきた(新聞記者が主人公というのはあるかもしれない)。しかしこの映画は「傍聴人」が主人公だ。傍聴人は裁判には直接タッチしない。ただ見ているだけの第三者だ。原作はその第三者視点から裁判で露呈する人間の悲喜劇を淡々とレポートするわけだが、映画ではそれだけだと長編ドラマが成立しない。これをどうやって1本の長編映画にするかという枠組みや構成作りが、この映画にとって最初の大きなハードルになったはず。完成した映画がそれをきれいにクリアできているとは思えないのだが、不器用ながらも難しいハードルを何とか飛び越えることには成功していると思う。

 売れない放送作家の南波タモツは、映画プロデューサーから「愛と感動の裁判映画」の脚本を執筆するよう依頼を受け、取材のため生まれて初めて裁判所で実際の裁判を傍聴する。おっかなびっくり足を踏み入れた裁判所は、生々しいリアルな人間ドラマの場。会社の同僚を大根で殴り殺してしまった男、万引きしたAVソフトのタイトルにやたらこだわる被告人、傍聴人が多いとやたら張り切る裁判官、親分の裁判で涙を流すヤクザたち、交通事故裁判に場違いな服装で現れ不興を買う被告人。しかしあまりにも人間くさい(「セコイ」と同義)事件の数々は、とても「愛と感動」の映画にはなりそうにない。やがてタモツは傍聴席でしばしば出会う「傍聴マニア」たちと親しくなり、彼らと共にひとつの裁判に深く関わっていくことになるのだが……。

 誰もが知っているようでじつは知らない情報を織り交ぜながら、エンタテインメント作品を作り上げているという意味で、この映画はかつての伊丹十三監督作品を彷彿とさせる。伊丹作品では「葬儀」「ラーメン」「税金」「芸者」「ヤクザ」「病院」「生鮮スーパー」などの実態をつぶさに取材し、それを欲望と葛藤が渦巻くエンタテインメントに仕上げていた。本作『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』は、そんな伊丹映画の系譜に連なる情報エンタテインメント作品だ。ただし伊丹映画は予算をたっぷりかけた大作映画なのに対し、『裁判長!〜』は予算も物語の規模もずっと小さな作品。伊丹映画なら後半でサスペンスやアクションをたっぷり盛り込んでクライマックスを盛り上げるのだろうが、この映画にそれは望めない。物語の主人公の生活ぶりと同様、どこかしら貧乏くさいのは残念だ。もちろんそれが今の日本人にとって、「等身大の主人公」ということでもあるのだろうけれど。

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11月6日公開予定 ヒューマントラストシネマ渋谷
配給:ゼアリズエンタープライズ 配給協力:マコトヤ
宣伝:フリーマン・オフィス
2010年|1時間35分|日本|カラー|アメリカンビスタ|DTSステレオ
関連ホームページ:http://www.do-suka.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:裁判長!ここは懲役4年でどうすか
原作:裁判長!ここは懲役4年でどうすか(北尾トロ)
原作:裁判長!これで執行猶予は甘くないすか(北尾トロ)
コミック版:裁判長!ここは懲役4年でどうすか
ドラマ版DVD:傍聴マニア09 裁判長!ここは懲役4年でどうすか
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