長年子供たちに親しまれているベストセラー絵本を原作に、大きな脚色などをするとなく、素朴な読み聞かせスタイルで展開する短編映画。作りとしては素朴で素直で単純だが、中身はハイテク。なにしろ全編3Dだ。わずか30分の作品だが、今回は5冊の絵本が取り上げられている。なかえよしをと上野紀子の「ねずみくん」シリーズから、「ねずみくんのチョッキ」「りんごがたべたいねずみくん」「なずみくん うみへいく」の3冊。まつおかたつひで「はじめてのぼうけん」シリーズから、「ぴょーん」「しりとり」の2冊。どちらも幼稚園や保育園の絵本棚に必ずありそうな、子供たちに人気の絵本だ。今回絵本の読み聞かせ(朗読)を担当するのは、「アニソンの女王」「ミッチ」こと堀江美都子。
内容的には「絵本のまんま」であり、原作の絵をデジタル処理で3D化し、少し動かすという程度。映画としての新鮮味は特にない。絵本のアニメ化という話なら、NHKで放送されている「てれび絵本」がある。「てれび絵本」もコンセプトは「読み聞かせ」だ。「てれび絵本」にない本作『とびだす絵本』だけのセールスポイントは、タイトル通りに絵が飛び出してくる3D映像であることだろう。これは現時点で、既存のテレビ番組には実現できない新機能。しかしながらそれが、逆にこの作品の販路を狭めてもいる。3Dアニメは、現時点ではテレビ放送できないからだ。
内容としてはテレビ向けだと思うが、3Dテレビがそれほど普及していないことを考えると、現時点では映画館で上映するしかない。しかしその場合、3Dメガネ付きで小人700円、大人1,000円という入場料(当日料金)が高いのか安いのか? 僕はこれを高いと思う。両親と子供ふたりなら、入場料だけで3,400円だ。それで番組自体は30分しかない。通常の3D長編映画なら入場料は倍になるが、それでも1時間半はたっぷり楽しめる。もっともこの映画が想定しているような幼い子供が、1時間半も映画に集中していられるかどうかは疑問だけれど……。
僕はこの映画の入場料を無料にすべきだと思う。30分で5本の映画になっているものをバラバラにして、5分ずつの短編映画にしてしまう。その上で3D映画を上映している映画館で、長編に併映する短編作品として上映すればいい。かつてアニメ映画というのは、すべてそうやって上映していたのだ。「ポパイ」や「トムとジェリー」は長編に併映されていた。最近はどこのシネコンも設備や環境では他の劇場と差別化できないだろう。だからこうした併映作品で、他の劇場と差別化することはできるかもしれない。
最終的にこれは家庭用のコンテンツとして、Blu-rayなどで発売すべきものだと思う。裸眼3D対応モニタ(東芝から発売される予定)を付けたポータブルBlu-rayプレイヤーなどには、打って付けのソフトだろう。
DVD:とびだす絵本 3D
原作:ねずみくんのチョッキ (ねずみくんの絵本 1) 原作:しりとり (はじめてのぼうけん) 原作:りんごがたべたいねずみくん (ねずみくんの絵本 (2)) 原作:ぴょーん (はじめてのぼうけん (1)) 原作:ねずみくんうみへいく (ねずみくんの絵本) |