名前のない女たち

2010/07/30 京橋テアトル試写室
誘われるままに企画AV女優になった女の過酷な運命。
同名インタビュー集をもとにした劇映画。by K. Hattori

Namaenonai  アダルトビデオ(AV)の世界には、芸能人なみの容姿とスタイルで出演作1本あたり百万円単位のギャラを取る「単体」女優と、容姿やスタイルが十人並みでしかないため、作品の企画内容に応じて集められては十把一絡げに扱われる「企画」女優という区分がある。(両者の中間のポジションが「キカタン」女優だ。)単体女優がファンの間でアイドル的な人気を持ち、マスメディアで一般芸能人に準じた扱いを受けることもあるのに対して、企画女優はビデオやDVDのパッケージに名前も出ず、作品内容によっては顔さえ映してもらえないなど(本人が顔出しNGの場合もある)、文字通り「名もなき存在」となることが多い。AV業界で働く女性たちのうち、名前の知られた単体女優はほんの一握り。残りのほとんどは名もない企画女優だ。そのギャラは1本あたり数万円から10数万円。それでも十把一絡げの仕事を数多くのなせば、普通のOLの何倍もの収入が得られるというのだが、OLがその気になれば一生の仕事になるのに対して、AV女優は数年で使い捨てになる消耗品だ。

 この映画はそんな企画AV女優たちに取材した中村淳彦の同名インタビュー集を原作に、ひとりの若い女性が企画女優として、同時にひとりの人間として成長(?)してゆく姿を描いている。主人公の桜沢ルル(芸名)を演じるのは、これが初主演となる安井紀絵。このヒロインは家庭では母親の渡辺真起子に虐待され、会社では同僚のかわい子ちゃんOLにいいようにこき使われるというダメダメ女。それが街頭でスカウトマンに声をかけられ、「今の生き方に満足してるの?」などと痛いところを突かれながら、言葉巧みにAV出演を承諾させられてしまう。家にも会社にも居場所のなかった彼女は、AV撮影現場ではじめて自分の存在が認められたことに舞い上がり、そのままAV出演を続けることになる。

 この映画に描かれているAVの世界が、どの程度現実にもとづいているのかを僕は知らない。おそらく脚本はノンフィクションである原作から多くの材料を借りているのであろうし、AV制作の現場の様子などもそれなりに下調べはしているのだろう。しかし僕はこの映画から、「AVの世界はこうなっているのですよ」という情報の面白さをあまり感じることができなかった。僕自身が何となく「こうなっているんだろうなぁ」と思っている状況をまったく裏切ることなく、AVタレント事務所や、企画AV女優の私生活や、AV撮影現場の様子がそれらしく描かれる。それらしく描かれてはいても、ここにあるのは状況説明のための記号でしかない。記号化されているのは登場人物の多くも同じだ。主人公の「私生活が不幸なのでAV現場で張り切っちゃってます!」という感じも紋切り型な気がした。この映画の中で記号であることを拒否しているのは、渡辺真起子と新井浩文ぐらいのものではないだろうか。

9月4日公開予定 テアトル新宿、新宿K's cinema
配給:ゼアリズエンタープライズ、マコトヤ 宣伝:フリーマン・オフィス
2010年|1時間45分|日本|カラー|16:9|ステレオ
関連ホームページ:http://namaenonaionnatachi.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:名前のない女たち
原作:名前のない女たち(中村淳彦)
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