アウトレイジ

2010/07/08 楽天地シネマズ錦糸町(CINEMA 3)
北野武監督の新作バイオレンス映画はまるでサラリーマン映画。
組織の非情なリストラに巻き込まれる男たち。by K. Hattori

映画 アウトレイジ  北野武監督にとって『座頭市』以来7年ぶりのバイオレンス映画。日本最大級の暴力団組織で起きた内部抗争の話だ。組織末端で起きた小さな小競り合いが、組織の全体を揺るがすような暴力の連鎖と拡大を生み出していく。そこで展開する暴力描写の凄まじさ。この映画は暴力描写のスゴサばかりが話題になって、確かにそれはそれでスゴイのだが、その土台になっている物語もなかなかいい。僕はこの映画を、北野監督のやくざ映画ではナンバーワンだと思う。東映任侠映画やその後の実録やくざ路線などとはまったく異質の、平成の今のやくざ映画になっていると思う。

 やくざ映画を観る人は、映画を観てやくざの実態について勉強したいと思っているわけじゃない。そこに描かれている人間像や物語の中に、自分たちの実生活を重ね合わせているのだ。「こういうヤツっているよなぁ」とか、「こういうことってあるよなぁ」と観客の共感を得られるのが優れたやくざ映画の条件になるのだと思う。そうした点で『仁義なき戦い』シリーズは傑作だったわけだし、アメリカ映画『ゴッドファーザー』シリーズは永遠の名作たり得ているのだ。今回『アウトレイジ』が描いているのは、巨大組織の情け容赦ないリストラに巻き込まれた男たちの物語だ。これはやくざ映画の姿をしたサラリーマン映画だと思えばいい。

 山王会が大友組を潰してその縄張りと商売をすべて取り上げるのは、大会社が系列の子会社や下請け会社の仕事を取り上げて潰してしまうのと同じだ。本社が生き残るためなら、子会社の人間など知ったことではない。ぎりぎりまで下請け同士を競わせて精一杯働かせ、最後の最後にバッサリと切り捨てればいい。同じようなことは、やくざではないカタギの世界で日常的に起きている。例えばリストラ中の会社では希望退職に応じない社員を解雇するため、周囲が寄ってたかって特定社員のあら探しをしたり、場合によってはありもしない事実をでっち上げてでもクビにしたりする。今年は「新卒切り」などという言葉がニュースを賑わせていたが、そこで行われているのは『アウトレイジ』の世界と同じだろう。『アウトレイジ』から話題になっている「凄惨な暴力シーン」をはぎ取れば、そこにあるのはリアルな日本の今なのだ。

 この映画にやくざ映画を期待すると、その期待は大きく裏切られると思う。人はやくざ映画に、復讐のカタルシスや、滅びの美学を期待する。しかしこの映画に、そうしたカタルシスや美学はない。登場人物たちの死に際はなんとも不様で、地味で、格好がよくないのだ。映画の中であれほど輝いていた椎名桔平が、最後の最後に男の意地を見せることなくあっさりと死んでしまうシーンを観て、僕はこの映画に「やくざ映画というジャンルの死」を感じた。この映画は北野監督のバイオレンス映画最新作だが、ひょっとするとこれが最後のバイオレンス映画になるかもしれない。

6月12日公開 丸の内ルーブルほか全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース、オフィス北野
2010年|1時間49分|日本|カラー|サイズ|サウンド
関連ホームページ:http://office-kitano.co.jp/outrage/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:アウトレイジ
サントラCD:アウトレイジ
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