東京島

2010/05/20 シネマート六本木(スクリーン4)
南海の孤島に漂着した中年女と23人の男たちのサバイバル。
飄々としたユーモアがあって面白い。by K. Hattori

Tokyojima  ふたりきりのヨットクルーズとしゃれ込んだ中年夫婦が、嵐にあって転覆遭難。だが幸か不幸かこの夫婦は生き延びて、南海の孤島に漂着することができた。周囲を見渡す限りの海に囲まれた無人島は、脱出不可能な天然の牢獄のようなもの。ところがその島に、バイト先から逃げ出してきたという16人の若いフリーターが漂着。さらに密航に失敗して海に放り出された中国人グループも加わって、20人以上の男たちの中に女性ひとりという異様な状況が生まれる。若い男たちにちやほやされて有頂天になる女。だが彼女を巡って、男たちの中には不穏な空気が流れ始める……。

 物語のアウトラインは、終戦直後に起きた「アナタハン事件」をモデルにしているようだ。これは終戦間際にアナタハン島という南方の島に、日本人の女性ひとりと男性31人が取り残されて共同生活するうち、女性の奪い合いで多くの男たちが命を落としたという実際に起きた事件。『東京島』はこの実話を現代に置き換えた、一種のシミュレーションドラマなのだ。今は人工衛星もあれば飛行機も飛んでいるので、孤島に漂着しても夜中に火炊いたりすればわりと早めに外部から発見されそうな気もするのだが、この映画ではそうした可能性については最初からまったく考慮せず無視されている。生活に必要な道具すらない無人島で暮らすための技術などについても、この映画での中では特に目立たない。病気や事故に遭ったらどうするのかにも無頓着だ。この映画はそうした無人島暮らしの細部には興味がなく、ただ、閉ざされた環境の中でひとりの女が大勢の男に囲まれているというシチュエーションが生み出す欲望ドラマにのみフォーカスしていくのだ。

 この映画の面白さは、物語をヒロイン清子の視点で描くことによって、欲望の対象である「清子」本人の自分自身に対する欲望が露わになっていることだ。清子は大勢の男たちに翻弄される受け身のヒロインではなく、むしろ自分自身を自己演出し、飾り立て、男たちの欲望の対象としての価値を高めることに積極的だ。島で唯一の女性に男たちが欲望を抱くように、清子本人も「島で唯一の女性」という自分自身に、男たちと同じ目で欲望を抱いている。欲望が幻想を生み出すわけだが、ある事件をきっかけにしてその幻想にほころびが生じる中盤以降の展開は、映画を観ていてもじつはあまり楽しめない。ひょっとするとこれは、映画を観ている僕自身が清子と同じように島での暮らしを楽しんでいたからかもしれない。清子が楽しい時は僕も楽しいが、清子の状況が厳しくなると映画は面白味をなくしてしまう。だから清子がある事柄をネタに、島での実権を取り戻すくだりは痛快だ。

 この映画を僕は楽しんだのだが、女性に幻想を抱いている人や、欲望の対象としての女を無意識の内に生きている人たちにとっては不愉快な映画かもしれない。

今夏公開予定 シネスイッチ銀座
配給:ギャガ
2010年|2時間9分|日本|カラー|ビスタサイズ|ドルビーSR
関連ホームページ:http://tokyo-jima.gaga.ne.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:東京島
原作:東京島(桐野夏生)
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