トイレット

2010/05/14 京橋テアトル試写室
『かもめ食堂』『めがね』に続く荻上直子監督の新作。
カナダで撮影されたオール英語作品。by K. Hattori

Toilet  『かもめ食堂』や『めがね』で高い評価を受けた荻上直子監督の新作。今回はカナダロケした全編英語作品だが、『バーバー吉野』以来荻上作品の常連となっているもたいまさこが、唯一の日本人キャストとして出演している。もたいまさこ扮する「ばあちゃん」が英語の台詞を喋らず、全編ほとんど無言で通しているのが脚本上の工夫と言えば工夫。ほとんどしゃべらない「ばあちゃん」だけに、彼女が深いため息をつくシーンは台詞と同等の重みを持つわけだし、彼女が孫に向けてたった一言だけ台詞を発するシーンは印象に残るのだ。(ここも台詞なしで通してしまうことはできたと思うけどね。ひょっとするとその方が映画の「仕掛け」としては面白かったかも。)

 母親が亡くなり、小さな家と3人の子供たち、1匹の猫、そして母が日本から引き取ったばかりで英語もろくに喋れない祖母が残された。子供たちのうち家に住んでいたのはパニック障害で家に引きこもっている長男モーリーだが、生活の不自由もあるだろうと大学生の長女リサが家に戻る。住んでいたアパートが火事になり、会社勤めのレイも家に戻ってきた。ほとんど面識のないばあちゃんと暮らし始めたレイが気になったのは、ばあちゃんが毎朝トイレから出てくるたびに、深いため息をつくこと。同じ頃、亡くなった母の遺品を整理していたモーリーは、部屋の隅でほこりをかぶっていた古いミシンを見つけ、それであるものを作り始めた。またリサは大学の詩作ゼミで一緒になった学生に、淡い恋心を抱いていた。

 僕は荻上監督の作品を『バーバー吉野』からすべて観ているが、『バーバー吉野』と『恋は五・七・五』はいわば普通の映画。作風ががらりと変化し、今に至る「荻上調」が定着したのは『かもめ食堂』以降だと思う。おそらくこれは間違いないと思うが、映画ファンで「荻上監督の映画が好き!」という人は、おそらく『かもめ食堂』以降の作品を観てそう言っているのだ。今回の『トイレット』はその流れにつながる作品だし、たぶん『かもめ食堂』と『めがね』が好きな人は今回の映画も好きになるのではないだろうか。でも僕は『かもめ食堂』こそ面白いと思ったが、『めがね』はあまり面白いと思わなかった。今回の『トイレット』は『めがね』よりはましだが、それでも普通の映画だと思う。  『かもめ食堂』は日本人キャストでアキ・カウリスマキのような映画を作るという、映画的な「仕掛け」が図にあたった映画だった。フィンランド映画のような日本映画を作りたいのなら、日本人の俳優をフィンランドに連れて行けばいい。それが成功したので、次の『めがね』では日本を舞台にしても同じことが可能かどうかを実験している。そして今回は、海外を舞台にして、海外のキャストで映画を作って、それでも「荻上直子の映画」ができるのかどうかという実験なのだ。結果として、これは普通の映画。荻上監督は次が正念場だと思う。

(原題:Toilet)

8月28日公開予定 新宿ピカデリー、銀座テアトルシネマ、渋谷シネクイント
配給:ショウゲート、スールキートス
2010年|1時間49分|日本、カナダ|カラー|アメリカンビスタ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.cinemacafe.net/official/toilet-movie/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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