ザ・ウォーカー

2010/04/16 松竹試写室
最終戦争で文明が壊滅した世界を変える1冊の本とは?
話はどうかと思うが映像はなかなか。by K. Hattori

Book of Eli  世界規模の戦争で地球上の生命がほとんど死滅し、わずかに残った人間たちがわずかな水と食料を奪い合うようになっている近未来。かつて隆盛をきわめた消費文明は消滅。ものを生産する手段を失った人間たちは、砂塵にまみれた瓦礫の山から前時代の遺物を掘り出して使っている。法律も道徳も文化も失われた社会を支配するのは暴力のみ。混沌とした世界に秩序はなかった。そんな世界を旅する、ひとりの男がいる。彼の名はイーライ。その使命は「1冊の本」を遠い西の果てに運ぶことだ。彼はそのために、長い長い旅を続けている。だがその「1冊の本」を求める、ひとりの男がいる。水源を支配して自分自身の町を興し、その支配者になっているカーネギーという男だ。彼はその「本」を手に入れることで人々の精神を支配し、自分自身の権力をより盤石にしようと考えている。その「本」を手に入れるためなら、いかなる犠牲を払っても惜しくはない。それにはそうするだけの価値があるのだ。たまたま町を通りかかったイーライが「本」を持っていることを知ったカーネギーは、その本を奪うために手下たちと共にイーライを襲うのだが……。

 無法者たちが暴力で支配している砂漠の町に、流れ者の男が迷い込んで支配者と対立し、支配者に囲われている美しい娘を助け、支配者を倒して去っていく。物語の舞台は近未来のアメリカだが、随所に見られる残酷描写も含めて、物語の枠組みとしてはマカロニ・ウェスタンの流れをくんでいるように見える。主人公がほとんど「名無しの存在」として扱われるのも、マカロニ・ウェスタンの流儀にかなったものかもしれない。ただし映画の原題は『The Book of Eli』で、最初から主人公イーライの名前が明らかになっている。ここから見えてくるのは、この物語の背後にある宗教性。ユダヤ・キリスト教的な物語の枠組みだ。イーライ(Eli)というのは旧約聖書に出てくる預言者(エリ)の名前。彼が運んでいる本は、もちろん聖書だ。イーライは不正がまかり通る世にあって神に祈り、神の呼びかけに応えて神の言葉を語り、権力者に迫害されるという、聖書時代の預言者同様の生き方をしている。いや彼の行動はむしろ、イエス・キリストのコピーと言ってもいいかもしれない。主人公イーライはさらにもうひとつ、とても有名な日本映画のキャラクターの影響下にあるのだが、それを書いてしまうとネタバレになるのでここでは書くのを控えておこう。

 映像や美術は見応えのある映画だが、物語自体に新鮮味があまり感じられないのが弱点。アクションシーンは多いのだが、ガンアクションにしろ、大型ナイフを使ったチャンバラにしろ、カースタントにしろ、平均的な以上の仕上がりにはなっていないように思う。主人公にカリスマ性がもう少しほしいのだが、それにはデンゼル・ワシントンという俳優が持つカリスマ性だけでは足りない。脚本や演出でイーライというキャラクターをもっと立ててほしかった。

(原題:The Book of Eli)

6月19日公開予定 丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
配給:角川映画、松竹
2010年|1時間58分|アメリカ|カラー|スコープサイズ|SRD
関連ホームページ:http://www.thewalker.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:ザ・ウォーカー
DVD (Amazon.com):The Book of Eli
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