アンダンテ

〜稲の旋律〜

2009/12/16 Togen虎ノ門試写室
引きこもりだった女性が農業を通じて癒されていく。
宣伝映画くさいが出演者の顔がいい。by K. Hattori

Andante  旭爪あかねの小説「稲の旋律」を、『青いうた/のど自慢青春編』の金田敬監督が映画化。脚本は『マリと子犬の物語』や『あの空をおぼえてる』の山田耕大。プロデューサーは『ガラスのうさぎ』や『いのちの地球/ダイオキシンの夏』などのアニメを手掛けてきた桂壮三郎で、今回の映画も東京ではポレポレ東中野という映画館で公開されるが、その他は全国の公民館やホールなどで自主上映されていくことになる。

 20代半ばを過ぎても定職に就けないヒロインが、たまたま訪れた千葉県の水田に「私を助けてください」という手紙を残し、それを読んだ農家の男との間で文通が始まり、やがてヒロインが農業を手伝うようになって、少しずつ心を癒されていくという物語。少し前に映画やテレビドラマの世界では「癒しの島=沖縄」というブームがあったが、これはその「農村版」だ。都会の生活に疲れたら、田舎にいらっしゃい。そこでは取れたての野菜や米と、おいしい空気と、青い空と、人情味溢れる人々の暮らしが待ってます。農家の仕事はきついけど、額に汗して働く暮らしこそ人間にとってもっとも自然な暮らし方。足や腰がくたくたになるまで働いて、家族や仲間たちと食べるご飯のウマイこと。熱い風呂につかって布団に潜り込めば、翌朝までぐっすり眠れます。そんなメッセージだ。

 多少なりとも農村の現実や実体を知っている者からすれば、ここに描かれている農業礼賛はいささかPR臭が強すぎるようにも思う。しかしここに描かれている農村の姿は、別に嘘っぱちというわけでもない。農村にある「美点」を大きく拡大し、「弱点」を小さく描いているからこうなるのだ。いやむしろ、弱点すらこの作品中ではかなり正確に正直に描かれている。農家の高齢化、農薬使用の問題、外国産農産物に価格で対抗できない現状。農家の抱える問題は山積している。筧利夫扮する晋平は、40過ぎでいまだ独身なのだ。彼は家業が農家であることに引け目を持っていて、交際中だった恋人にこっぴどく振られたことがある。それ以来、どうすれば農業という仕事に誇りを持てるかということを考えながら10年を過ごしてきた。だがそれはまだまだ、道半ばと言うしかない。ヒロインの母親が農家出身で、幼い頃から農家の苦労が骨身に染みているという設定もいい。農家は本当に大変なのだ。

 映画はそうした農業問題の現実を背景にしながら、ひとりの女性が家族の呪縛を離れて自立していく姿を描いている。じつはこのドラマ部分がちょっと弱くて、この映画は損をしている。主演の新妻聖子はこれが初主演らしいのだが、周囲を芸達者なベテランたちに囲まれて影が薄くなってしまっているのは残念だ。役柄が引きこもりのニートで、生きる意欲がなくボンヤリしているという設定だから、影が薄くなってしまうのはある程度仕方ないのだが、ヒロインがもう少し際立ってくると映画の腰がずっと強くなったと思う。

1月23日公開予定 ポレポレ東中野
配給:ゴーゴービジュアル企画 宣伝:アルゴ・ピクチャーズ
2010年|1時間50分|日本|カラー|ビスタ
関連ホームページ:http://andante.symphie.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:アンダンテ 〜稲の旋律〜
原作:稲の旋律(旭爪あかね)
関連CD:アンダンテ(新妻聖子)
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