ダーク・ハウス

暗い家

2009/10/18 TOHOシネマズ六本木ヒルズ(Screen 4)
惨劇の起きた農家を検証する男たちに起きた新たな惨劇。
第22回東京国際映画祭コンペ作品。by K. Hattori

Darkhouse  妻を突然の病気で失った農業技師シロドンは、傷心で酒浸りの荒れた生活から抜け出すべく、遠く離れた農場に技師としての新しい職場を見つけた。だが荷物ひとつで現地に向かうと農場の手前で車から降ろされ、そこからは土砂降りの夜道をひとり歩かされる羽目になってしまう。彼は雨宿りと朝までの宿を求めて近くの農家を訪ね、最初は警戒していたその家の夫婦と意気投合。農夫が納屋で密造酒を造っていると知ると、その上質なデキに大いに感心し、一緒に密造酒販売で大儲けしようと持ちかけるのだが……。それから4年後、手錠をかけられたシロドンは大勢の警官たちに囲まれて、無人となり荒れ果てたその農家を訪れていた。それは4年前に起きた凄惨な「事件」の現場検証が目的だったが、現場を指揮するムルズ警部補は、この面倒な検証作業の裏に事件捜査とは別の大きな意図が隠されていることに気づくのだった……。

 映画前半のムードはコーエン兄弟の『ファーゴ』だが、それが終盤になるとエミール・クストリッツァの『アンダーグラウンド』を想起させる、陽気で猥雑で残酷な狂乱状態に傾斜していく。これはひとつの寓話であり、ブラック・コメディだ。映画は1978年に起きた事件を描く回想部分と、それを改めて現場検証する1982年の部分に大きく二分される。1978年がコーエン兄弟風で、劇中はほとんどが夜のシーンで季節は秋。1982年がクストリッツァ風で、エピソードはすべて陽光に照らされた雪景色の中で展開する。これらはポーランドの現代史の中にある、ふたつの時代を表しているのだ。

 1978年は、ソ連の衛星国として比較的安定した(しかし強固に抑圧的な)社会運営が行われていた時代。社会主義体制の中でも、人々は役人たちの目をかいくぐってそれなりの「お楽しみ」に精を出している。「密造酒作りで大儲けしよう!」というのは、そうした時代に庶民が抱いた小さな夢のひとつかもしれない。しかし1980年に全国でストが発生し、後の民主化運動で主導的な役割を果たす労働組合「連帯」が作られると、政府は政府に対して批判的な運動に対して強硬姿勢で挑んだ。1981年に戒厳令が発令され、「連帯」は非合法とされて議長のワレサは身柄拘束される。だが強権的な社会の締め付けは、国民を置き去りにして権力者たちが保身をはかるだけのものだった。国際的な批判を浴びてポーランド政府は翌年ワレサを釈放し、さらに戒厳令も解除した。ワレサはノーベル平和賞を受賞し、89年には選挙で「連帯」が圧勝して90年にはワレサが大統領になる。この映画に描かれた1982年というのは、いまだポーランドが戒厳令下にある民主化の夜明け前。

 昔から「夜明けが一番暗い」と言われるが、この映画はその「暗闇」を、日の光がまぶしい雪景色の中に描き出す。目先の欲望による殺人も恐ろしいが、銀世界の中の惨劇はそれ以上に不気味だ。

(原題:Dom zly)

第22回東京国際映画祭 コンペティション
配給:未定
2009年|1時間49分|ポーランド|カラー
関連ホームページ:http://www.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=3
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:ダーク・ハウス/暗い家
関連DVD:ヴォイテク・スマルゾフスキ監督
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