真幸(まさき)くあらば

2009/10/07 東映第1試写室
強盗殺人で死刑判決を受けた青年の恋の相手とは……。
きれいな映画だが小さくまとめすぎ。by K. Hattori

Masakiku  小嵐九八郎の同名小説を、森山直太朗作品の作詞家として知られる御徒町凧(おかちまちかいと)が監督して映画化したもの。製作は奥山和由で、音楽監督を森山直太朗が担当。主題歌と劇中挿入歌も彼が歌っている。もともと別の監督で企画が進んでいたのだが、映画の方向性で奥山プロデューサーと監督の間で意見の相違が生じて監督が降板。このため代打として起用されたのが、御徒町監督だったということらしい。この間には御徒町監督を含めた4人で「ユニット監督」などというプランもあったそうだが、結局は撮影開始のわずか2週間前に単独監督作になることが決定したという。このような経緯だけを見ると「奥山和由がまたやった!」という賑やかな印象を受けてしまうが、映画自体はきわめて静かで穏やかなラブストーリーに仕上がっている。

 遊ぶ金欲しさに民家に忍び込み、その場に偶然居合わせた男女を殺した青年・南木野淳。強盗殺人犯として死刑の判決を受けた淳は、弁護人の進める控訴手続きを取り下げて一審の死刑判決を受け入れる。これで死刑は確定。だが弁護人の紹介で刑の確定前から支援活動に協力していた川原薫は、淳の死刑確定後に養子縁組の手続きを取って面会や差し入れを続ける。死刑が確定している淳に面会が許されているのは、たったひとりの家族である彼女だけ。だが薫にはこれまで、淳や弁護士にも秘密にしていたことがある。それは彼女が、淳に殺された男性の元婚約者だったという事実。彼女は淳に差し入れた聖書に書き込んだメッセージでこの事実を伝え、同時に彼に対する秘めた思いを告白するのだった……。

 この映画にとって最大の難関は、自ら控訴を取り下げて死刑を受け入れた青年と、彼に婚約者を殺された女性の間に、いかにして恋愛感情を作り出すかということだったはずだ。ところが映画はその点を、うまく描けているとは思えない。物語の中に仕掛けられている「ふたりの恋を阻むカセ」を突破していくだけの勢いが、主人公たちからは感じられないのだ。結果としてこの映画の中では、淳の恋心は彼の中に芽生えた生への執着や、目前に迫った死という現実からの逃れたいという気持ちのように見えてしまう。薫の恋心も、婚約者を失った後に踏み入れたつまらない結婚からの逃避ではないのか。「究極の純愛」だの「禁じられた恋」だのと言われても、その動機がどちらも現実逃避では、恋愛の純度もかなり色褪せて見えようというものだ。

 恋愛映画に求められるのは、コントロールできない恋の濁流に呑み込まれ、押し流されていく人々の姿だ。だが本作『真幸くあらば』は、ちょろちょろ流れる小川の水だ。主人公たちは恋愛に奥手で、この程度の水でも溺れられたらしいが、僕にはいまいちピンとこなかった。最初は小川の水でも結構。しかしそれがあっと言う間に水位を増して巨大な奔流になる様子を描いてこそ、「恋愛映画」というものだと思う。

2010年1月9日公開予定 新宿バルト9ほか
配給:ティ・ジョイ 宣伝協力:ホットソース
2009年|1時間31分|日本|カラー|ビスタサイズ|DTSステレオ
関連ホームページ:http://www.masakiku.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:真幸くあらば
原作:真幸くあらば(小嵐九八郎)
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