行旅死亡人

2009/09/30 映画美学校第1試写室
本当の名前を隠し他人に成りすまして生きてきた女。
その背後にある人生の謎に迫るミステリー。by K. Hattori

Kouryo  ジャーナリストを目指してアルバイト生活をしている滝川ミサキは、ある朝奇妙な電話で起こされる。電話をかけてきたのはまったく知らないウィークリーマンションの管理会社。「滝川ミサキさんが倒れて病院に運ばれました」と言う相手は、電話に出ているのがミサキ本人だと知って絶句する。どうやら誰かが、ミサキの名前を使って部屋を借りていたらしい。自分の名前を無断で使った女の正体を突き止めようと病院に向かったミサキは、その女が以前バイトをしていた出版社の先輩社員・吉村靖子だったことを知る。だが靖子の入院を彼女の家族に知らせようと連絡先住所を訪ねると、そこには吉村靖子というもうひとりの女性が住んでいた。「吉村靖子」という名前もまた、他人の名前の無断借用だったのだ。いったい入院中の女性の正体は何者なのか? 彼女は何のために、次々と他人の名前を借りて生活していたのだろうか? ミサキは小さな手がかりをもとに、その真相を探る旅をはじめるのだった……。

 面白い映画だった。『行旅死亡人(こうりょしぼうにん)』というタイトルがいい。耳慣れない言葉だが、一度覚えてしまえば二度と忘れそうにないインパクトがある。本人のところに「あなたが倒れて入院してます」という連絡が入る導入部も面白い。名前を偽る女の正体があっさりわかったと思うと、それがまた偽名だったというミステリーのつなぎ方もいい。この映画は発端や導入部に詰め込まれたアイデアが、ものすごく面白いのだ。この素材は料理の仕方次第で、とびきり上等の社会派ミステリーになっていただろう。

 しかしこの映画は「上等の社会派ミステリー」になりそこなった。素材はいいのに、料理の腕が下手くそなのだ。一番の問題は、ヒロインの頭が悪いこと。ジャーナリスト志望だと言うくせに、好奇心もなければ、知的な探求心も、作家になるための野心も見られない。あるのはつまらない「正義感」だけなのだ。このため映画の中盤以降になると、提示された謎の答えに観客の方が先に気づいてしまう。この時とても腹立たしいのは、提示された「謎」自体にヒロインが気づかないことだ。目の前に奇妙なことや不思議なことがあるのに、彼女は「なぜだろう?」「どうしてだろう?」とすら考えないのだ。ジャーナリスト志望なら、目の前にぶら下げられたニンジンに誰よりも早く食らいつかなければならない。ところがこの頭の悪い女は、目の前のニンジンがそもそも目に入らないのだ。

 ヒロインの頭が悪く勘も鈍いのを補うため、映画は終盤に近づいてから保険の調査員という探偵役を登場させる。ところがこの男も、ヒロインに負けず劣らず頭が悪い。「奇妙だ」「不思議だ」と思うところまではヒロインよりだいぶましだが、その後にロジカルに物事を考えることができない。結果として観客がすべて察した後に、登場人物たちがごちゃごちゃ動き出すのだ。もう遅いっつ〜の!

 脚本を練り直しての再映画化を強く希望する。

11月上旬公開予定 シネマート新宿
配給:マジックアワー
2009年|1時間52分|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.kouryo.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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