バカは2回海を渡る

2009/09/28 TMシアター新宿
俳優の弓削智久と須賀貴匡が映画撮影のためアメリカへ。
撮影隊とはぐれてふたりでヒッチハイク。by K. Hattori

Baka2  俳優の弓削智久と須賀貴匡が、短編映画『FREE』を製作するためアメリカに渡ってからの出来事を、ほぼ時間の流れに沿って綴っていくロードムービー。映画の最後には完成した映画『FREE』も収録されていて、いわばそれまではこの映画のメイキング・ドキュメンタリーといった趣向。しかしこれは、どこまでがドキュメンタリーで、どこからがフィクションなのかが曖昧だ。『雨に唄えば』や『アメリカの夜』などと同じ映画を作る人たちの映画(バックスクリーンもの)の一種のようにも見えるし、短編映画をとりあえず長編として劇場公開するための付け足しのようにも見える。

 映画はモニュメントバレー近くで撮影隊からはぐれ、野宿しながらラスベガスへの旅をする弓削智久と須賀貴匡の姿から始まる。言葉もうまく通じない異国の地で、彼らは何をしているのか? それを説明するため、映画は数日前に時間をさかのぼる……、という語り出し。要するにこの映画の中で物語の大きなうねりを生み出すのは、仲間たちとはぐれて主人公たちがアメリカをヒッチハイクするということにある。しかしこれが大問題だった。僕自身はこれが「フィクション」だと思っているのだが、「ドキュメンタリーと銘打っているくせにフィクションとは怪しからん」と言いたいわけじゃない。ドキュメンタリーでフィクションも大歓迎。そもそも仲間たちと意図的にはぐれるぐらいは、やらせや捏造というより「行き過ぎた演出」程度の話だ。それより僕がこれを大問題だと思うのは、この演出にあまり効果がないこと。演出によって映画が盛り上がるならいいが、映画はそれまでの淡々としたトーンをまったく変えることなくその後も継続していく。仲間とはぐれるという不測の事態が生じても、登場人物たちの中に葛藤や衝突が生まれたりしないのだ。

 ドラマの基本は葛藤だ。それはどんな脚本の教科書にも書かれている、映画にとっての基本中の基本だろう。葛藤から衝突や対立が生じ、そこから勝敗や和解へと至る。同じく葛藤からは迷いが生まれ、迷いの中から決断が導き出される。しかしこの映画には、大きな葛藤が存在しない。主人公たちはいつもヘラヘラ笑って、目の前にある出来事をやり過ごしてしまう。これを「軽やか」とか「しなやか」という言葉で表現することはできるだろうが、ドラマを生み出すためにはその軽やかさやしなやかさに冷水をぶっかけるような何かが必要なのだ。

 映画は最初から最後まで同じような淡々としたタッチで、劇中映画の『FREE』でもそれは変わらない。男ふたりが旅に出て、行く先々でいろいろな場所に行き、いろいろな人に出会う。要するに『FREE』は『バカは2回海を渡る』という映画のエッセンスであり、ダイジェスト版なのだ。両者に違いはほとんどない。だったら『FREE』だけ単独で観た方が、観客にとっては時間の節約になりそうな気がするなぁ……。

11月28日公開予定 ユーロスペース(レイト)
配給・宣伝:アルゴ・ピクチャーズ
2009年|1時間15分|日本|カラー|ビスタ
関連ホームページ:http://www.baka2.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:バカは2回海を渡る
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