アンヴィル!

夢を諦めきれない男たち

2009/09/18 映画美学校第1試写室
成功から取り残されたヘヴィメタ・バンド30年の歩み。
この映画で起死回生なるか? by K. Hattori

Anvil: The Story of Anvil (Ws Dol) [DVD] [Import]  アンヴィルは1980年代初頭のヘヴィメタル・ブームの中で、ファンや業界関係者から注目を浴びたカナダ出身のバンド。テクニックでもサウンドでもパフォーマンスでも、彼らに影響を受けた他のバンドは多かったという。しかし同時期に活動していた他のバンドが次々メジャー進出して商業的な大成功を収めていく中で、アンヴィルはその流れから取り残された。1990年代になると音楽シーンの流行がヘヴィメタルから他のジャンルに移行し、多くのバンドが解散やメンバーチェンジによって姿を変え、姿を消していくことになる。もともと商業的なヒットに恵まれていなかったアンヴィルは、誰からも注目を浴びることなく、ただひっそりと忘れ去られていった……。

 だがアンヴィルはその後も解散することなく、今でもカナダで活動を続けている。1980年代のはじめに少しだけ注目され、脚光を浴びたことが忘れられず、今でもなお「音楽でビッグになる!」という夢を捨てきれないのだ。ボーカルでリーダーのリップスは50歳。生活費を稼ぐため地元の給食センターで働きながら、少年時代からの相棒であるドラマーのロブ(ほとんど無職)と一緒に小さなライブハウスで音楽活動を続けているのだ。この映画はそんなアンヴィルの今を、完全密着で追い掛けたドキュメンタリー映画。タイミングよく舞い込んできた欧州ツアーの話にうっかり(?)乗ってしまったメンバーたちが、行く先々でひどい目に遭うエピソードもあれば、起死回生のニューアルバム制作のためスタジオに缶詰になったり、作ったアルバムが大手レコード会社からまったく相手にされずに落ち込んだりと、面白いエピソードには事欠くことがない。

 僕はこの映画を見て、ミッキー・ローク主演の『レスラー』を思い出した。主人公の長髪という外見上の共通点や、主人公が生活の糧を得るために給食センターやスーパーの食品売り場で働いているという共通点もあるわけだが、それより似ているのは「夢を捨てきれない」「過去の栄光が忘れられない」という部分なのだ。『レスラー』の主人公ランディは架空の人物だが、『アンヴィル!』の主人公であるリップスやロブは実在しているというのがすごい。『レスラー』が好きな人は、『アンヴィル!』も必見だ。両者は職業のジャンルこそ違え、同じような人生を描いている。

 だがふたつの映画の大きく違う点は、『レスラー』の主人公が家庭生活ではまったく恵まれていなかったのに対して、『アンヴィル!』の主人公たちが家族の愛情に支えられていることだ。彼らの音楽活動を時には冷ややかに批評しながら、それでもそばで寄り添い見守っている家族たち。彼らもまた「いつかは音楽でビッグに!」という夢を共有する運命共同体なのだ。映画をきっかけにアンヴィルはまた注目されているようだが(日本版のCDも出るぞ!)、この家族がいる限り彼らの幸せは保障されているような気がする。

(原題:Anvil! The Story of Anvil)

10月24日公開予定 TOHOシネマズ六本木ヒルズほかにて公開
配給・宣伝:アップリンク
2009年|1時間21分|アメリカ|カラー|1:1.85|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.uplink.co.jp/anvil/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:アンヴィル! 夢を諦めきれない男たち
関連CD:This Is Thirteen~夢を諦め切れない男たち~(アンヴィル)
関連CD:Anvil
関連DVD:サーシャ・ガバシ監督
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