ウイグルからきた少年

2009/09/09 映画美学校第1試写室
カザフスタンで路上生活同然の暮らしをするウイグル人少年。
彼を取り巻く過酷な運命を淡々と描く。by K. Hattori

Yashi  カザフスタン南東の都市アルマトイを舞台に、生まれも育ちも言葉も違う3人の子供たちの身に起きる悲劇を描いた小品。子供たちは男の子ふたりと女の子がひとり。ウイグル人の少年アユブは、中国の新疆ウイグル自治区からたったひとり、迫害を逃れてカザフスタンに逃れてきた亡命者。しかし親族も知り合いもいないアルマトイで、誰に頼ることもないままレンガ工場で働きながら他のふたりと暮らしている。もうひとりの少年は、カザフ人の少年カエサル。もともとは豊かな家庭に暮らしていたようだが、家から飛び出してアユブたちと自由気ままな暮らしをしている。3人組の紅一点は、ロシア人の少女マーシャ。まだ幼い顔立ちの彼女だが、仕事は娼婦。元締めからの連絡で客のもとに向かうこともあれば、街頭に立って客を引くこともある。

 映画は上映時間が1時間強。ごく小予算で撮られた映画であり、登場人物も3人の少年少女以外にはほとんど登場しない。3人が暮らす廃屋にしばしば顔を出し、家賃と称して子供たちの稼ぎの中からなにがしかを巻き上げていくチンピラが、この映画に登場して子供たちと深く関わっていく唯一の大人と言ってもいい。説明的な描写もごく控え目で、資料には3人の子供たちがそれぞれどんな事情で現在の境遇に至っているのかという説明が書かれているのだが、映画の中からそれを読み取ることはできない。アユブの両親が不当に逮捕されたとか、カエサルの両親が政権中枢の要職にあるとか、マーシャが養父から虐待を受けていたとか、そういう話はすべて映画には反映されずに終わった「裏設定」みたいなものなのだ。3人の子供たちにはそれぞれが抱えた、映画に描ききれない大きな物語がある。しかし映画の中でそれが描かれてはいないわけだから、映画としては舌足らずで不親切なものになっている。

 この映画は監督が自らの見聞をもとにして作ったというのだが、主人公である3人の子供たちが向かい合っている過酷な日常が、あまりにも淡々と平板に描かれているのがとても気になってしまう。子供が金で売られて自爆テロリストにさせられてしまうとか、少女が街娼に落ちぶれてやがて身体を蝕まれていくとか、不良少年がケンカや強盗の末に路上で刺し殺されるとか、そういうドラマチックな話が、まったくドラマチックなものとしては描かれずに素っ気なく描写されるだけなのだ。

 たぶんこれは、監督自身の「世界の現実はこういうものなのだ」というメッセージなのだろう。子供が少年兵やテロリストにさせられることも、子供が売春業に従事させられることも、子供が子供同士のいざこざの中で殺されてしまうことも、平和な日常を享受している日本人から見ればとてつもなく大変なこと。でもこうしたことは、世界のあちこちで日常的に起きている。この3人に子供たちは、彼らにとっての当たり前の日常を当たり前に生きているだけで、そこには何のドラマもないのだろう。

(原題:Yashi)

10月3日公開予定 渋谷アップリンクほか全国順次ロードショー
配給・宣伝:アップリンク
2008年|1時間5分|日本、ロシア、カザフスタン|カラー|16:9
関連ホームページ:http://www.uplink.co.jp/uyghur/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:ウイグルからきた少年
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