あがた森魚ややデラックス

2009/08/05 映画美学校第2試写室
あがた森魚の還暦記念ライブツアーに完全密着。
バランスの取れた好ドキュメンタリー。by K. Hattori

 最初に白状しておくと、僕はあがた森魚を「歌手」として意識したことはなかった。歌手だと知らなかったわけではないし、歌手であることを否定したり低く評価しているわけではない。単純に、あがた森魚が歌手であるという事実をそれほどよく知らないのだ。僕にとってあがた森魚は「俳優」だ。主役級でもなければ名脇役というわけでもないが、周辺の小さな役にピンポイントで出演して異彩を放つのがあがた森魚という役者だった。もちろん彼が『オートバイ少女』など何本かの映画を撮った監督であることも知っている。僕はあがた森魚を、まずは「俳優」として知っていたのだ。(彼がヴァージンVSのボーカルとしてTVアニメ「うる星やつら」のED曲「星空サイクリング」を歌っていたというのは、また別の話である……。)

 1948年に北海道留萌市に生まれたあがた森魚は、昨年満60歳の還暦を迎えた。これを記念して「惑星漂流60周年」という全国縦断ライブツアーを行い、年明けの2月には九段会館で「あがた森魚とZIPANG BOYZ號の一夜」と題したライヴを行った。本作『あがた森魚ややデラックス』は、ライブツアーの振り出しとなる2008年8月の北海道から、最終目的地である12月末の沖縄までツアーに同行する形で完全密着し、なおかつ九段会館のライヴまでを収録したドキュメンタリー映画。この映画ではあがた森魚が「主役」だが、ここにいるあがた森魚は「俳優」ではなく「歌手」だ。しかしカメラの前で、彼は被写体としての自分を十分に意識しながら自分自身を演じているようにも見える。

 この映画の中のあがた森魚を一言で言うなら、それは「大人げないオヤジ」ということだろうか。俳優として出演した『人のセックスを笑うな』では好々爺めいたとぼけた風情を醸し出していたあがた森魚だが、この映画では感情むきだしになって怒鳴る、わめく、そして泣く。それが本気なのか、半ば演技なのかはよくわからないのだが、たぶんそれがあがた森魚という個性なのかもしれない。「俺の声がデカイのは怒ってるんじゃないんだよ。ただ声がでかいんデス。でかい声がイケナイっていうなら、PA使ったロックなんて聴くなってんだよ!」と、明らかに怒っていたり、「有神論とか無神論じゃない。僕はムシ論だから……ムシ論。虫です。リーリー、コロコロと鳴いてればそれでいいんです。これは俺の思想を語ってるんだ!」と酒場で吠えたり。

 しかし音楽にしろ映画にしろ、創作をなりわいとしている人間というのはこうでなければイカンのではないか……と思わせるところもある。創作の源泉なんてものは空から降ってくるわけじゃない。新しい何かは結局のところその人の経験を糧に生み出されてくる。だからモノを造る人は、自分の過去の経験を振り返るしかないのだ。あがた森魚は自分の過去について何度も語り、そして歌うのである。

10月10日公開予定 シアターN渋谷にてモーニング&レイトショー
配給:トランスフォーマー 宣伝協力:太秦
2009年|1時間30分|日本|カラー|アメリカン・ビスタ|ステレオ
関連ホームページ:http://www.
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:あがた森魚ややデラックス
関連DVD:竹藤佳世監督
関連DVD:あがた森魚
関連CD:あがた森魚
ホームページ
ホームページへ