パティ・スミス

ドリーム・オブ・ライフ

2009/07/29 松竹試写室
パンクの女王パティ・スミスを11年にわたって追ったドキュメンタリー。
プライベートな映像は貴重なものだろう。by K. Hattori

Patti Smith: Dream of Life (Ws) [DVD] [Import]  1970年代のニューヨーク・パンクを代表するアーティストであり、今もなおトップランナーとして音楽シーンを走り続けているパティ・スミスを、なんと11年にもわたって取材し続けたドキュメンタリー映画。1975年に「ホーセス」でアルバムデビューした彼女は、80年に結婚して一度引退。その後は88年にアルバムを1枚リリースしたが、親しい友人や家族の相次ぐ死に見舞われて再度の沈黙。この映画はそんな彼女が本格的な復帰に向けて始動しはじめる1995年頃から準備が始まり、その後11年にわたって撮影された膨大な記録を編集したものだ。

 監督はファッション・フォトグラファーのスティーヴン・セブリング。映画は全編16ミリカメラで撮影されているが、そのため自主製作のような映画にしては膨大なコストがかかっている。撮影開始からたった4年で資金が枯渇し、監督のクレジットカードの未払い分が10万ドルになったという。おそらく途中でビデオ撮影に切り替えてしまいたいという誘惑にかられたと思うが、それをせずに全編フィルムで撮りきったのは大したもの。映画の中では11年間の時間が、すべて同じ質感で揃っている。ビデオ撮りのドキュメンタリーを否定するわけではないし、撮影メディアの違いは映画の本質とは無関係だが、この映画のように「フィルム素材」にこだわって映像世界を構築していくのも味がある。ただし今から同じような映画を新たに撮影するなら、それはビデオ撮影にした方がいいと思う。おそらくセブリング監督も、撮影を始めた当初はまさかこれが11年も続くとは思っていなかったに違いない。

 ミュージシャンについての記録映画だからライブのシーンなどももちろん含まれているが、全体の割合としては演奏シーンや歌唱シーンは少ない。映画の大部分を占めるのは、パティ・スミスのプライベートでの姿や語りだ。この映画を観ると、「ミュージシャン」という一語ではくくれない彼女のさまざまな姿を観ることができる。彼女はミュージシャンであり、詩人であり、母親であり、未亡人であり、画家であり、政治的なメッセージを叫ぶアジテーターでもある。この映画には作り手の用意した解説やテロップがない。画面にはパティ・スミスが出ずっぱりで、ナレーションも詩の朗読も歌も全部パティ・スミス。映画の撮影時期後半がちょうどイラク戦争の時期とぶつかっていたこともあり、映画の中ではジョージ・W・ブッシュを悪し様にののしる彼女の声が幾度もリフレインされる。

 詩人としてのパティ・スミスは、ランボー、ギンズバーグ、ウィリアム・ブレイク、バロウズ、ジム・モリソンなどから影響を受けているが、映画の終盤に出てくる仲間との会話からは、マーク・トウェインなどアメリカのトールテール(ホラ話)の伝統を受け継いでいることもうかがえる。ミュージシャンと言うより、文学者のイメージだ。

(原題:Patti Smith: Dream of Life)

8月29日公開予定 シアターN渋谷、シネマート新宿
配給:トランスフォーマー 宣伝・配給協力:ザジフィルムズ
2008年|1時間49分|アメリカ|カラー&モノクロ|アメリカン・ヴィスタ|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://pattismith-movie.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:パティ・スミス:ドリーム・オブ・ライフ
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