ちゃんと伝える

2009/07/08 GAGA試写室
父親がガンで入院し、それを見舞う息子にもガン宣告。
家族と自分の死を見つめる青年は何を思うのか? by K. Hattori

Chanto  高校教師で名門サッカー部の鬼コーチとしても知られていた父親が突然倒れた。病名はガン。即日入院で、容態は予断を許さない。地元タウン誌の編集部に勤める息子の史郎は、母と共に毎日のように病院に父を見舞う。「退院したら、一緒に釣りに行こう」と語り合う父と息子。父親が病気になるまで、こんな風に親子でちゃんと話をしたことなんてなかった。父の病気をきっかけに、一家はひとつにまとまっていく。だが病院で何気なく健康診断を受けた史郎は、医者からとんでもないことを聞かされる。史郎自身もガンに冒されており、しかもその病状は父より悪いというのだ。あるいは自分は、父より早く死んでしまうかもしれない。父は自分が病気と闘いながら、息子の死を看取らなければならないのか。史郎は自らの病気のことを胸に秘めたまま、いつも通り職場と病院に通うのだが……。

 『紀子の食卓』や『愛のむきだし』の園子温監督が、自ら父を看取った体験をもとに作ったホームドラマ。主人公の史郎を演じるのはEXILEのメンバーで、最近は映画やドラマで俳優活動も積極的に行っているAKIRA。父の徹二を演じるのは奥田瑛二、母は高橋惠子、恋人の陽子を演じるのは伊藤歩。映画の後半から親友役で登場するのは高岡蒼甫。くしくも親子の主治医になるのが吹越満、父の同僚教師にでんでんなど。ベテランの綾田俊樹と諏訪太郎は、わずか1シーンか2シーンの出演ながら強烈な印象を残すのはさすがだ。

 ガンという病気を扱った物語ではあるが、これはいわゆる「難病ドラマ」(監督は「余命もの」と呼ぶ)とは一線を画している。何しろこの映画の中には、登場人物たちが病気で苦しむシーンがほとんど出てこない、入院はしていても治療を受けるシーンも出てこない、主人公は医者から病を宣告されても「じゃあ今後はどんな治療をしましょうか? 手術ですか? 薬ですか? 放射線ですか?」なんて話もしない、病気を知らされた周囲の人々も病気の治療についてはなんの関心も払っていないし話題にも出ない。ここでは病気も、病院も、死でさえも、ある種の「記号」としてしか扱われていないのだ。要するにそこには「病気」というもののディテールがない。「入院生活」の中身がない。

 だがこの映画の場合はそれでもいい。監督が描こうとしているのは「ストーリー」ではなく、「キャラクター」だからだ。映画はひとつの「状況」を設定して、そこに「登場人物」たちを配置する。描きたいのは「人物」の側であって「状況」はその背景でしかない。だから「状況」の説明は必要最小限にとどめ、その分「人物」をを深く掘り下げる方に注力されているのだ。

 今回特筆すべきは伊藤歩の素晴らしさだろう。子役時代からいろんな映画に出ているけど、今回の映画ほど「上手い!」と思わされたことはなかった。映画には感動的なシーンがいくつかあるのだが、そのすべてに例外なく伊藤歩がからんでいる。

8月22日公開予定 シネカノン有楽町1丁目ほか全国ロードショー
配給:ギャガ・コミュニケーションズ
2009年|1時間48分|日本|カラー|ビスタサイズ|DTS
関連ホームページ:http://chantsuta.gyao.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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