キャデラック・レコード

音楽でアメリカを変えた人々の物語

2009/06/05 SPE試写室
ブルースからロック誕生までの歴史を描く実録音楽映画。
ドラマは弱いが演奏歌唱シーンは最高。by K. Hattori

キャデラック・レコーズ  1950年にシカゴで発足したチェス・レコードの歴史を通して、ブルースからロックに至るアメリカのポピュラー音楽史を概観してみせる音楽映画。チェス・レコード所属のミュージシャンであり、優秀なソングライターでもあったウィリー・ディクソンがレーベルの歴史を語るという形式を借りて、貧しいポーランド系移民の青年レナード・チェスがクラブ経営からレコード会社設立に至った経緯や、彼のレコード会社に集まってきたさまざまなミュージシャンたちのエピソードが綴られている。マディ・ウォーターズ、リトル・ウォルター、ハウリン・ウルフ、チャック・ベリー、エタ・ジェイムズなど、チェスの関連レーベルに所属していたアーティストが次々に登場するが、オリジナル音源は使わずにほとんどが現代のアーティストによるカバー演奏になっている。エタ・ジェイムズ役のビヨンセ・ノウルズは製作総指揮も担当しているが、劇中で披露される彼女の歌唱シーンは圧巻で、この映画の大きな見どころになっている。

 奴隷の子孫である黒人たちが農場などで歌っていた労働歌を起源に持つブルースが、1950年代に盛んにレコーディングされて新しいポピュラー音楽となり、それが白人たちの手に渡ってロックになる。そんなアメリカンのポピュラー音楽史を、この映画はじつにわかりやすく解説してくれる。

 だが物語の本分である人間同士の葛藤ドラマということになると、この映画はちょっと弱い。最大の原因は、主人公レナード・チェスの人物像が曖昧なことだ。映画前半のチェスはよく描けている。金儲けのためのクラブ経営、商売としてのレコード会社経営、売り込みのために業界の横紙破りも何のその、稼いだ金はパッパと使ってしまう羽振りの良さ。しかしこうした前半の切れの良さに比べると、映画後半のチェスは焦点の定まらない人物になる。分岐点はビヨンセのエタ・ジェイムズが登場してからだろうか。彼女に対するチェスの行動や気持ちが、この映画からはボンヤリとしか伝わってこないのだ。これが脇の方にある小さなエピソードならそれでも構わないのだが、映画の中ではかなり大きな扱いになっているから、このボンヤリは映画そのもののボンヤリとした印象を作ってしまう。

 金儲けのために結果としては差別されている人々を助けた男の物語として、この映画は『シンドラーのリスト』に似ているところがある。あの映画のオスカー・シンドラーも、何を考えているかわからない曖昧な男だった。しかしスピルバーグはシンドラーを見つめるシュテルンという人物を狂言回しにすることで、この問題を巧みに処理している。『キャデラック・レコード』ではその役回りをマディ・ウォーターズが担当しているのだが、ウォーターズは映画後半で物語の周辺部に追いやられてしまうので、ドラマの核心部分が手薄になっている感は否めない。

(原題:Cadillac Records)

8月15日公開予定 新宿ピカデリー、恵比寿ガーデンシネマほか全国順次ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
2008年|1時間48分|アメリカ|カラー|シネマスコープ|SDDS、ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.sonypictures.jp/movies/cadillacrecords/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:キャデラック・レコード
サントラCD:キャデラック・レコード~音楽でアメリカを変えた人々の物語 デラックス・エディション
サントラCD:キャデラック・レコーズ
サントラCD:Cadillac Records(2枚組)
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