全米の心霊スポットを取材して何冊もの本を出している作家マイク・エンズリンのもとに、「1408号室には泊まるな」とだけ書かれた手紙が届く。部屋番号の数字を全部足すと縁起の悪い「13」になる。何のことはない、これは新たな心霊スポットとして観光客を呼び込むための、ホテル側の風変わりな売り込みなのだ。似たような売り込みは、マイクのもとに山のように届けられている。だが彼がニューヨークのホテルに電話をかけると、ホテル側は1408号室への宿泊予約を拒否。何度取材を申し込んでも、ガードが堅くてまるで相手にされない。調べてみると問題の部屋では、確かにこれまで多くの殺人や自殺があった。いよいよ興味を持ったマイクは法的な圧力をかけて強引に部屋を予約し、ホテルに乗り込んでいく。支配人から再度警告を受けても、マイクはひるむことなく部屋に泊まることにするのだが、彼はそこでこれまで出会ったことのない本物の超常現象に出くわすことになる……。
スティーヴン・キングの短編小説を、ジョン・キューザックとサミュエル・L・ジャクソン主演で映画化したホラー・サスペンス映画。監督はスウェーデン出身のミカエル・ハフストローム。原作は未読だが物語は精神分析的なホラーとでも言うべき内容。ホテルの部屋は宿泊者が心の奥底に封印した記憶をよみがえらせ、死の衝動へと追い込んでいくのだ。しかし抑圧していた記憶を思い出した人間は、そのカタルシス効果によって心の傷を癒され、新しい人生へと踏み出していく。ここではなぜこの部屋が呪われているのかや、主人公を苦しめる邪悪な何者かの正体などについては一切考慮されることがない。それはどうでもいいことなのだ。人間にとって最大の敵は、自分自身の心の中にいる。それと戦い勝利したものだけが、過去を乗り越えて未来に生きることができるのだ。
1408号室で起きた怪現象は、結局のところ主人公に対する荒っぽい心理療法だったと解釈することもできる。だがなぜ主人公だけはこの療法から生還し、他の人々は自滅の道を選んでしまったのだろうか。部屋は主人公に「チェックアウトする(死を選ぶ)かどうかは自由意思です」と告げている。彼はその言葉に従って、自らの意志で「生きる」ことを選ぶのだ。しかしなぜ彼だけが生きられたんだろうか?
映画はこのことについて、細かな説明をしていない。別れた妻に対する愛が結局は彼を救ったという解釈も可能だが、それを補強する材料が映画の中にあまり見出せない。主人公が「娘の死」という忌まわしい記憶と共に妻に対する愛情も心の奥底に封印してしまったのだとしたら、妻への思いをもう少しはっきりと描いてほしかった気もする。それによって、映画終盤にある「未来への不安」という恐怖は強められただろう。しかしそれは、映画中盤までにある超常現象とは別種の恐怖。物語のトーンを揃えるために、少し遠慮したのかもしれない。
(原題:1408)
DVD:1408号室
原作収録短編集:幸運の25セント硬貨(スティーヴン・キング) サントラCD:1408号室 サントラCD:1408 関連DVD:ミカエル・ハフストローム監督 関連DVD:ジョン・キューザック 関連DVD:サミュエル・L・ジャクソン 関連DVD:メアリー・マコーマック 関連DVD:ジャスミン・ジェシカ・アンソニー |