北海道にある日本最北の動物園、旭川市旭山動物園。入場者減少から閉園間際の崖っぷちに追い込まれたこの地方動物園が、園長や飼育係たちの努力によって見事に再生して日本一の動物園へと生まれ変わる。このサクセスストーリーを紹介すべく、数多くの本が書かれている。NHKの人気番組「プロジェクトX〜挑戦者たち〜」でも紹介された。フジテレビでは2006年からドラマ「奇跡の動物園〜旭山動物園物語〜」が放送されている。今や上野動物園を抜いて年間入場者数ですら日本一になろうかというこの動物園は、現代の日本人が広く共有する「神話」のようなものになっている。
マキノ雅彦(津川雅彦)監督はどうやら「プロジェクトX」でこの動物園のことを知ったようだが、その後フジテレビの「奇跡の動物園」で園長を演じることになったのも縁となり、ドラマ撮影で旭山動物園を訪ねた機会に早速映画化の交渉とネタ集めを始めたらしい。新人の飼育係が園長らと衝突しながら成長していく姿を、動物園の再生とダブらせていくストーリー展開がドラマ版のパクリだって? そういう野暮なことは言いっこナシ! ドラマも映画も園長のモデルは小菅正夫園長だし、新人飼育係のモデルは坂東元副園長(4月1日から新園長)だろう。どちらも実話をもとに同じ素材から作品を作っているんだから、似たような筋立てになっても仕方ない。
映画は実話をもとにした大小のエピソードをつなぎ合わせながら、閉園瀬戸際まで追い込まれた動物園の窮状を描いていく。動物園の再生という事実を観客が知っていることもあり、このあたりの描写があまり深刻になり過ぎずユーモアたっぷりだ。園長役の西田敏行をはじめとするベテラン俳優たちの貫禄と余裕が、この映画に「ゆとり」を生み出している。こうした大ベテランたちの中で、新人飼育係を演じる中村靖日の硬さが初々しい。マキノ雅彦監督の映画はベテラン俳優たちの貫禄や余裕がむしろ嫌味なこともあるのだが(前作『次郎長三国志』はそれが顕著)、今回の映画はそれがあまり感じらない。新旧の人間関係やエピソードがうまく噛み合って、見事なアンサンブルを奏でている。
しかし映画の終盤、動物園が危機から脱して日本一の動物園へと再生していく過程はじつに素っ気ない。本当ならここがクライマックスになるはずなのに、観ていてもぜんぜんワクワクしないのだ。おそらく監督は飼育係たちの「苦労話」に共感しても、その後の「成功物語」にはさほど興味がなかったのだろう。その一方で、定年退職する園長を動物たちが見送るラストシーンの過剰な思い入れぶり。
じつは映画の完成前から、モデルとなった小菅園長が2009年3月いっぱいで定年退職することが決まっていたのだ。映画は実際の園長よりも一足早く園長を退職させることで、精一杯の感謝と尊敬の思いをモデルの小菅園長に献げているのだ。この映画を観た小菅園長は号泣したという。