キング・コーン

世界を作る魔法の一粒

2009/02/27 映画美学校第2試写室
トウモロコシを入口に農業大国アメリカの病んだ実像に迫る。
スリリングなドキュメンタリー映画。by K. Hattori

King Corn: You Are What You Eat [DVD] [Import]  中国古典「漢書」の文帝記に曰く「農は天下の大本なり」と。古代から現代に至るまで国家経済の基盤は農業であり、国家指導者の役目は農業政策であり続けた。それは21世紀の今もまったく変わらない。世界一の経済大国アメリカ合衆国もまた同じだ。アメリカは世界一の工業国、世界一のハイテク技術国のように思われがちだが、経済の足もとを支えているのは農業なのだ。その生産量は世界最大。世界中に流通している穀物の多くはアメリカ製品で賄われている。今では車や家電製品などの分野でアメリカは他国の後塵を拝しているが、農業だけは断トツのトップランナー。アメリカ人は世界中に穀物や果物や牛肉を輸出して、その代金で他の国々から車や家電製品を購入しているようなものだ。

 この映画でテーマになっているトウモロコシは、1年間の世界生産量6億トンのうちおよそ4割が米国産と言われ、商品として世界に流通するトウモロコシの6割は米国産なのだとか。日本は1年に1,600万トンのトウモロコシを輸入する世界最大の輸入国だが、その9割は米国産だと言われている。この映画に描かれているアメリカのトウモロコシ事情は、決して対岸の火事でも他人事でもない。これは我々の生活に直結する出来事を取材したドキュメンタリー映画なのだ。

 この映画を観ると、アメリカの経済がトウモロコシを中心に成立していることがわかる。昔からアメリカにとってトウモロコシは中心的な農産物だったが、日本のコメと同じく作りすぎて価格が暴落し、それを食い止めるために作付けの制限を行っていた。(アメリカ版の減反政策だ。)だが1970年代にこの方針は大きく転換する。トウモロコシの生産が自由化されたのだ。生産量が増えれば価格が下がるが、それは機械化と化学肥料と農薬に頼った大規模農業と、病害虫に強く面積あたりの収量が多い品種の開発、食用以外の消費ルート開発で補う。さらに農家に対しては、政府から十分な保証金を支払って赤字を埋め、利益が出る構造を作り上げる。こうしてアメリカは世界で最も安いトウモロコシを、世界で最も大量に作る国になった。

 作ったトウモロコシのうち、果実やせいぜい油として直接人間の口に入るのはごく一部。残りは家畜の飼料になる。甘味料のコーンシロップに化けてあらゆる食品に入り込む。最近ではプラスチックの材料にすることもあるし、バイオ燃料の原料として大量に消費されはじめてもいる。世界一安い大量のトウモロコシがあるおかげで、我々は安い畜産品(肉や牛乳や卵)や加工食品(食料品の原材料に書かれている甘味料のほとんどはトウモロコシ由来だという)を手に入れられる。しかしこうした食生活は、諸費者が望んで手にしたものではない。すべては「作り過ぎたトウモロコシをどう消費するか?」から出発したものなのだ。

 要するにアメリカはトウモロコシを消費するためなら何でもするのだ。バイオ燃料に注目が集まっているのも……。

(原題:King Corn)

4月公開予定 シアター・イメージフォーラム
配給:インターフィルム 配給協力・宣伝:エスパース・サロウ
2007年|1時間30分|アメリカ|カラー
関連ホームページ:http://www.espace-sarou.co.jp/kingcorn/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:キング・コーン
DVD(輸入盤):King Corn: You Are What You Eat
関連書籍:“トウモロコシ”から読む世界経済
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