『THE 有頂天ホテル』に続く、4本目の三谷幸喜監督作。架空の港町守加護(すかご)を舞台に繰り広げられる、ギャングと殺し屋と映画を巡るドタバタ芝居だ。1920〜30年代を舞台にしたハリウッド製ギャング映画のような設定を、現代の日本に強引に持ち込むというアイデアは面白い。作品で言えば『スティング』とか『アンタッチャブル』の世界を、日本人が日本語で演じるようなものだ。セットのデザイン、登場人物たちのファッションなども、こうした古い映画を大いに参考にしている。さらに言うならこうした世界観を成立させる土台になっているのは、かつて日本で量産されていた無国籍アクション映画(例えば日活のアクション映画)のテイスト。こうした世界を成立させるために、この映画では東宝スタジオで最大のステージの中に、守加護の町の大きなセットを組んでいるという。
しかし映画を観た正直な感想としては、「これって映画のリアリズムではないよなぁ」と思わざるを得ない。いかにも人工的な撮影用セットの中で、いかにも人工的でわざとらしい扮装をした登場人物たちに「この町はまるで映画のセットみたい」と言われても鼻白むばかりだ。もちろん映画には作り込まれた人工美を見世物にする作品がたくさんあるし、人工的なセットの中でこそ成り立つ真実の物語だってあるだろう。「ウソのウソはホント」のような、虚構空間におけるリアリティだ。ところがこの映画ではそれが、「ウソをウソで塗り固めた」ようにしか見えない。監督の狙いとしては「ウソの中のホント」を描きたかったはずなのだが、それがまるで嘘八百にしか見えないのはなぜだろう。
これは物語のベースとなる世界観が、物語のコンセプトと深刻な衝突を起こした結果かもしれない。物語の世界は前述したように徹底した「虚構の空間」として作られている。しかし物語は「現実の中で虚構が現実に転化する」というものなのだ。売れない役者が演じるニセモノの殺し屋が、本物のギャングたちに出会ったことで生じる誤解の反復と拡大。ならばニセモノの殺し屋が出会うギャングたちは、徹底してホンモノでなければならないはずだ。ところがこのギャングたちは、最初から「虚構の空間」に住んでいる。ウソの世界にウソの殺し屋が紛れ込んでも、それはウソにウソを重ねた大ウソになるばかりなのだ。
もちろんこんな古典的なギャングは今どきどこにも存在しないわけだから、それを映画的にリアルに見せるための工夫として人工美に向かうのは理解できる。でもこの映画では、その人工美がまだ足りない。やるなら徹底して、いっそミュージカル映画にでもしてしまえばこの設定が生きてきたと思う。いずれにせよ映画としては失敗している作品だと思うが、興行的には大ヒットしているそうだから全面的な失敗作というわけでもない。話は面白いので、これは舞台劇に仕立て直すと最高に愉快なものになるだろう。
DVD:ザ・マジックアワー
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