光州5・18

2008/06/06 新宿ガーデンシネマ
1980年5月に起きた光州事件を一市民の目から再現。
序盤もたつくが中盤から盛り上がる。by K. Hattori

愛でいこうぜ!/Message~「光州5・18」によせて~  1980年に起きた光州事件の映画化。同年5月18日から27日にかけて、韓国全羅南道の道庁所在地である光州死では民主化を求める大学生や市民と軍隊が武力衝突して多数の死傷者を出した。韓国政府の公式発表によれば官民合わせて200名近い死者が出たとされるが、実際にはそれよりずっと多くの犠牲者が出たとも言われる。韓国現代史に大きな傷跡を残したこの事件は、当時の徹底した報道管制のもとでほとんど外部に知られることはなく、韓国の国内でさえ事実をねじ曲げた政府の公式発表しか伝えられなかった。真相が少しずつ明らかにされてきたのは、韓国に文民政権が発足した93年以降のことだ。

 光州事件が映画の中に直接描かれたことはほとんどないそうで、1999年にイ・チャンドンの映画『ペパーミント・キャンディー』の中に少し登場したのが個人的には記憶に残る程度だ。そこでは事件を鎮圧するため投入された若い兵士が心に深い傷を受け、人生を狂わせていくという物語になっていた。しかしこれは、事件の一断面に過ぎない。『光州5・18』はこれまで断片的にしか描かれてこなかった事件の全体像を、光州市民の視点から描いた歴史大作だ。映画のメッセージは明確。かつて「反政府勢力の起こした内乱」として処理された事件は軍隊の理不尽な暴力に対する市民の自衛の結果であり、戦いに参加した者たちは「暴徒」ではなく平和を愛する平凡な市民に過ぎなかったのだという主張だ。

 光州事件の発端は大学生の民主化デモらしいが、この映画は「なぜ学生の反政府デモが光州全市に拡大したのか?」という疑問に、ミヌという平凡な一市民の姿を借りて答えを出そうとしている。彼は巷で盛り上がる政治運動とは、まったく無縁のノンポリだ。政治的な主義主張など存在せず、平々凡々な小市民的幸福を味わえればそれで満足。しかしそんな彼も、目の前で親しい人が傷つけられれば無視することもできない。逃げ回っていた男は、いつしか抵抗運動の最前線に立つようになる。

 映画序盤にある平和な市民生活の描写は、正直ひどく退屈だ。しかし市内が軍隊に占拠されて以降のドラマはずっと見応えがある。主人公が市民たちの抵抗運動に参加するか否かという、ドラマを生み出す葛藤が明確になるからだろう。運動と個人の葛藤というドラマは、その後も映画の最後まで持続する。市民たちの抵抗の物語として、この映画は十分な説得力を持ち得ていると思う。ただしそれだけでは、映画としてまだ弱いのも確かなのだ。

 ただしこの映画では光州市民たちと敵対する軍隊の行動動機が意味不明で、集団(軍隊)と集団(市民)の対立葛藤のドラマが弱い。事件はなぜ起きたのか。事件は避け得なかったのか。それがよくわからないのだ。事件の真相にいまだ不明な部分が多いことも原因のひとつではあるのだろうが、これは今後の研究成果とそれを反映した後続作品に期待するべきだろう。

(英題:May 18)

5月10日公開 新宿ガーデンシネマ、シネカノン有楽町、渋谷アミューズCQNほか全国ロードショー
配給:角川映画
2007年|2時間1分|韓国|カラー
関連ホームページ:http://www.may18.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:光州5・18
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