隠し砦の三悪人

THE LAST PRINCESS

2008/06/04 楽天地シネマズ錦糸町(スクリーン2)
黒澤明の『隠し砦の三悪人』を半世紀ぶりにリメイク。
オリジナル版のファンも楽しめる。by K. Hattori

裏切り御免  黒澤明の『隠し砦の三悪人』は1958年(昭和33年)に公開されている。この年は『ALWAYS 三丁目の夕日』の舞台になっている年であり、日本映画界が11億2700万人という史上最高の映画人口を記録した年でもある。『隠し砦の三悪人』は黒澤作品の中で『七人の侍』や『用心棒』ほどでないにせよ今でも人気のある作品で、ジョージ・ルーカスが『スター・ウォーズ』を作る際、大いに参考にした作品としても知られている。今回はそれを「劇団☆新感線」の中島かずきが新たに脚色し、『ローレライ』や『日本沈没』の樋口真嗣が監督しているのだが、オリジナル版のストーリーやアイデアを生かしつつ、登場人物のキャラクターなどはほとんど新しく作り直している。

 オリジナル版は強欲で卑屈な足軽農民と屈強で誇り高い侍の対立が、ドラマの軸になっていた。それはそれで面白いのだが、こうした対立はなかなか現代には通じない。21世紀の観客は無敵のスーパーヒーローである侍に素直に憧れることはないだろうし、卑屈な農民にはなおさら気持ちを動かされないだろう。そもそも戦国時代の侍と農民をまるで違う人種として描くオリジナル版の設定は、最近の歴史学の常識に反しているのだ。戦国時代は下克上の時代で、身分の垣根はあってなきようなもの。農民の多くは半農半兵で、ひとたび戦が起きれば農民がそのまま槍刀を持って戦場にはせ参じたのだ。戦国時代には足軽身分から天下人になった人物もいたではないか。

 今回の映画でも侍と民衆の対立を基本的にはオリジナルから引きずっているのだが、主人公の武蔵は侍の支配を受けない山の民(サンカ)という設定になっているのは面白い。しかしどうせこうした設定を持ち込むなら、支配者である名門の侍一族と、半農半兵であわよくば立身出世を願う足軽、あらゆる支配を拒む山の民という性格付けをより強くして、オリジナルとはまったく別種の対比を作ってしまった方が面白かったのではなかろうか。サンカ=忍者説なんてものをからめていくと、アクション映画としての広がりが出てくると思うんだけどね。

 オリジナル版でもっとも印象的な台詞のひとつ「裏切り後免」を、今回のリメイク版でもどこかに潜り込ませようと工夫しているようだけど、結果としてはひどく場違いで不自然になってしまった。こうしたオリジナル版への目配せは、もっと別の場所でやればいい。例えば山の民が集う火祭りのシーンで流れる音楽をオリジナル版とまったく同じにするとか(今回もだいたい同じだけどちょっと違う)、オリジナル版の有名なテーマ曲をどこかでチラリと流してみせるとか、その程度で十分だったように思う。

 全体にオリジナルを踏まえつつ、それをなるべく壊していこうという姿勢や努力が好ましく思える。しかしそれでも、要所要所でオリジナルに引っ張られるのは、オリジナルがそれだけ面白いと言うことだろう。

5月10日公開 日劇PLEXほか全国ロードショー
配給:東宝
2008年|1時間58分|日本|カラー|ビスタサイズ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.kakushi-toride.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS
サントラCD:隠し砦の三悪人
主題歌CD:裏切り御免
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