ブラックサイト

2008/03/18 SPE試写室
インターネットで生中継される凄惨な殺人の現場。
犯人の動機に同情してしまう。by K. Hattori

Untraceable [Original Motion Picture Soundtrack]  インターネットの危険性が、いろいろと取りざたされている。他のメディアに比べて、なぜネットがかくも危険視されるのか。それはネット利用には「匿名性」の問題がついて回るからだ。人はネットの中で、別の人格に成りすますことができる。自分の姿を隠して透明人間になれる。普段の自分ではないもうひとりの人格が、ネットの中で一人歩きしていく。日常生活で接している友人や知人、職場の同僚、家族にすら見せていない自分の顔を、ネットの中ではさらけ出せるのだ。そこでは人間の持つ欲望が、際限なく肥大していく。

 映画『ブラックサイト』の原題は『Untraceable(追跡不能)』。ネットの中に開設された殺人生中継サイトの主催者を、警察とFBI捜査官が追う物語だ。インターネットは完全匿名だと思われているが、じつはネットにアクセスすれば誰もがそこに個人を特定できる痕跡を残しており、警察はサーバー管理者にその情報を提供してもらうことでアクセス者を特定できるようになっている。しかし殺人サイトの主催者は国内外のサーバを何度も迂回してサイトにアクセスしているため、通常の捜査方法ではまったく相手にたどり着けない。犯人は警察やFBIを挑発するように、次々に犠牲者を残酷な方法で血祭りに上げていく……。

 犯罪映画としてのプロットを見る限り、これはネットを悪用した連続殺人犯と、それを追う警察関係者の戦いを描いた話。しかしこの映画が告発しているのは、インターネットでもその利用者でもない。インターネットはこの映画が告発しようとしている対象を、より明確に浮かび上がらせるための装置に過ぎないのだ。この映画は何を告発するのか? それは犯罪とは何の関係もなく暮らしている、我々普通の一般人が持つ当たり前の心理だ。

 映画の冒頭近くに、道路の事故渋滞の様子が登場する。事故現場では車が大破し、運転手と思われる人間が車外に放り出され、事故処理の作業員によってその上半身にシートがかけてある。おそらく運転手は死亡したのだろう。通行中の車はこの様子を見ようと、事故現場の横で車の速度を落とす。彼らは職場に行って、ほんの数十分前に事故現場で死体を見たことを自慢するに違いない。人間の死は、赤の他人にとってはこの上もないエンタテインメントなのだ。

 誰だって自分の家族や友人の死を、エンタテインメントだとは考えない。死のエンタテインメント化は、人の生命の尊厳に対する冒涜に思えるのだ。しかしそう考える人間も、他人の死には無関心になれる。他人の死を物笑いの種や酒の肴にすることができる。それがどんな人間もが心の中に持つ、品性のなさ、どうしようもない嫌らしさだ。映画『ブラックサイト』は、そうした人間の心理自体を批判する。この映画を観終わった感触は、ズシリと重たいものだった。犯人の冷たい眼差しが、長く印象に残りそうな映画だ。

(原題:Untraceable)

4月12日公開予定 渋谷東急ほか全国松竹東急系
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
2008年|1時間40分|アメリカ|カラー|スコープサイズ|SDDS、Sr-D、SR
関連ホームページ:http://www.sonypictures.jp/movies/untraceable/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:ブラックサイト
DVD (Amazon.com):Untraceable
DVD (Amazon.com):Untraceable [Blu-ray]
Untraceable [UMD for PSP]
サントラCD:Untraceable
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