バンテージ・ポイント

2008/02/19 SPE試写室
8人の視点から描かれるアメリカ大統領狙撃事件の真相。
手法と素材の相性の良さが迫力を生んだ。by K. Hattori

 国際テロ撲滅のため、スペインのサラマンカで開催された国際首脳会議。会議の成否を握っているのは、テロとの戦いの最前線にいるアメリカのアシュトン大統領だ。その大統領が、大勢の群衆とテレビカメラの目の前で何者かに狙撃された。続いて起きた大規模な爆発。世界中が目撃した最悪のテロ。厳重な警備の隙を突いて、いったい誰が大統領を撃ったのか。物語はここから、23分前にさかのぼる……。

 大統領狙撃という大事件を最初にテレビニュースの取材スタッフの視点で見せ、その後何度も時間を巻き戻しながら、同じ事件をシークレットサービスの視点、地元刑事の視点、アメリカ人旅行者の視点、大統領自身の視点など、複数の視点から描いていくサスペンス映画だ。この「視点」こそが、『バンテージ・ポイント』というタイトルの意味。ひとつひとつの視点は、他の視点にはない独自性と優位性を必ず持っているが、その視点から物事の全体像を見渡せるわけではない。映画は登場人物それぞれの「バンテージ・ポイント」を寄せ集めながら、大統領暗殺という大胆不敵な犯行の真相に迫っていく。

 ひとつの出来事が、それに接した当事者たちの立場によってまったく違った様相を見せてくる。これは黒澤明の『羅生門』にもあるパターンだが、『羅生門』では個々の視点からの証言によって事件の描写が大きく食い違っていくのに対して、『バンテージ・ポイント』にそうした趣向はない。ここで描かれているのは、ひとつの事件に対する複数の視点からの情報であり、バラバラに配置された事件の真相につながる断片だ。ひとつの事件に向けて複数の人物が動き、それぞれの視点を切り替えていくことで出来事を立体的に見せていく。

 通常こうしたシーンは複数の視点をめまぐるしく切り替えるクロスカッティングで見せることが多いのだが、『バンテージ・ポイント』は登場人物それぞれの視点を一度に通しで見せてしまうのがミソ。もちろんこうした構成も、この映画が初めてというわけじゃない。ひとつの事件を、回想シーンなどを交えながら複数の視点で描く映画などありふれている。しかしそれは通常ふたつ(例えば恋愛映画における男女それぞれの視点)か三つ(最近の映画では『東京少年』がこの事例になる)に限られれるもので、あまり視点が増えると個々のドラマの描写が浅くなってしまうため避けられるはずだ。

 『バンテージ・ポイント』もそこはもちろん心得ていて、映画で描く時間を狙撃事件の前後数十分間に限定している。登場人物たちの抱えたあらゆるドラマは、この数十分間に集中していてそれ以外は描かれない。斬新な手法とその手法に合った素材ががっちりかみ合うことで、この映画の面白さは引き立っている。最後まで「個人の視点」を貫けなかったのは残念だけど、これは今後いろんな映画で(部分的にであれ)マネされると思う。

(原題:Vantage Point)

3月8日公開予定 サロンパス ルーブル丸の内ほか全国松竹東急系
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
2008年|1時間30分|アメリカ|カラー|2.35:1|Dolby Digital、DTS、SDDS
関連ホームページ:http://www.sonypictures.jp/movies/vantagepoint/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:バンテージ・ポイント
サントラCD:バンテージ・ポイント
Vantage Point
ノベライズ:バンテージ・ポイント
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