東京少女

2008/02/05 松竹試写室
現代の女子高生が100年前の青年と携帯電話で恋に落ちる。
夏帆主演のSFラブ・ストーリー。by K. Hattori

 16歳の女子高生が落とした携帯電話が、どういうわけか明治時代の日本にタイムスリップ。偶然それを拾った小説家志望の大学生との間で、声だけのやり取りが始まるのだが……というファンタジックな青春映画。監督はSFものが得意な小中和哉。主演は夏帆(11代目リハウスガール)と佐野和真。作り手の意図としてはこれを「恋愛映画」にカテゴライズしたいのだろうが、僕はこの映画から「恋愛」の熱い心のトキメキをあまり感じられなかった。同時に製作された姉妹編の映画『東京少年』はかなりハードでヘヴィーな恋愛の葛藤を描いた映画だったのだが(もちろん青少年向けのファンタジーではあるけど)、今回の映画はそれに比べるとだいぶ軽い印象の仕上がりだ。

 この軽さは、物語が小さな世界にシュリンク(萎縮)したことから生まれたものだと思う。100年近い時間と空間の広がりを、携帯電話というツールを使ってひとまたぎにしてみせるアイデアは面白いのだが、ここから物語が広がっていかない。最大の難点は、この手のタイムトラベルものに付きもののタイムパラドックスをどう解消するかという点に腐心するあまり、人間にとっての過去と未来を、予め決定づけられた一直線の世界としてしか描けなかったことだろう。

 確かにこの映画の中では、映画を観た後で観客を悩ませるようなタイムパラドックスは生じていない。しかしそれは映画の作り手が、予め決定づけられた出来事の改変という、タイムトラベルものにお馴染みの領域に手を突っ込んでいないからに過ぎない。未来からの介入によって過去の歴史が変わらなければ、タイムパラドックスは生じない。この映画は主人公たちを、そんな相互不可侵の立場に置いたままなのだ。

 先の見えない未来に向けて、自分自身の夢を追い続けるのが青春というものだろう。しかし映画のクライマックスでヒロインは相手の未来を知ってしまい、それを告げられた相手も、あえてその範囲内でしか自分の行動を選択しない。運命は予め決められていて変更不可能。その運命に従うことが、自分の人生において成すべきことだというのか? 運命に身をゆだね、予め決まっている未来への一本道をただ進んでいく。そこには、先の見えない未来に向けてがむしゃらに進んでいく青春の姿はない。時次郎は自分の運命にあらがうべきだった。自分が知った自分の未来に逆らって、自分の運命を自分自身で切り開いて行くべくもがくべきだった。

 もちろんそこでは、タイムパラドックスの問題が生じるだろう。しかし「自分の未来は自分自身で切り開く!」という青春ドラマの約束事を全面的に放棄したところに、いったいどれほど魅力的な物語を作れるというのだろう。面白いアイデアの脚本だと思うし、魅力的なエピソードも多いだけに、この決着の付け方は残念でならない。脚本を作る側に、運命にあらがう勇気を持ってほしかった。

2月23日公開予定 新宿トーアほか全国順次公開
配給:エム・エフボックス 宣伝:る・ひまわり 宣伝協力:クルーズ
2008年|1時間38分|日本|カラー|ビスタサイズ|ステレオSR
関連ホームページ:http://w3.bs-i.co.jp/cinemadrive/girl/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:東京少女
ノベライズ:東京少女 (Linda BOOKS!)
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