椿三十郎

2007/12/04 TOHOシネマズ錦糸町(スクリーン4)
黒澤明の傑作時代劇を織田裕二主演でリメイクした話題作。
脚本はオリジナル版をそのまま使用。by K. Hattori

 1962年に公開されて大ヒットした黒澤明の同名時代劇を、森田芳光監督が織田裕二主演でリメイクした作品。ある小藩に流れ着いた浪人が、藩重役たちによる汚職事件に巻き込まれて大暴れするという物語だ。オリジナル版で三船敏郎が演じた浪人・椿三十郎を織田裕二が演じ、仲代達矢が演じた三十郎のライバル・室戸半兵衛に豊川悦司、加山雄三が演じた若侍たちのリーダー格・井坂伊織を松山ケンイチが演じている。脚本は菊島隆三・小国英雄・黒澤明が合作したオリジナル版を、そのまま一言一句変えずに使用している。

 オリジナル版は全部で30本ある黒澤映画の中でも、その面白さでは一二を争う痛快な娯楽作品。その脚本をそのまま流用しているのだから、これがつまらなくなるはずはない。今回の映画では基本的にオリジナルのシナリオを生かしつつ、細かなところで現代の観客に合わせた小さな工夫をしていることに感心した。

 例えば映画の冒頭、森の中から染み出るように現れる大目付の手下たちの姿を挿入することで、その後のサスペンスを盛り上げる。大勢の捕り手たちの中に現れた三十郎が、刀の鞘で数人を叩きのめす立ち回りを少し長めに見せて、主人公の三十郎がとてつもなく腕っ節が強いことを印象づけてもいる。三十郎の強さはオリジナル版が前年の『用心棒』に続いて公開されたときには、当時の観客たちにまったく説明の必要がないことだった。しかし今回のリメイク版で初めて三十郎に接する人には、こうした工夫が必要になってくるわけだ。

 最後の三十郎と室戸の一騎打ちも含めて、オリジナル版との違いはあちこちにある。しかしこの脚本は、もう少し思い切って手を入れてもよかったのではないだろうか。例えばそれは、三十郎の話し言葉だ。「〜だぜ」「〜じゃねえか」といった三十郎のべらんめえ口調は、今となってはいかにも古めかしい。若侍たちの口調もいかにも硬直だ。会話の流れはそのままオリジナル脚本を尊重しつつ、言葉遣いや口調を現代の言葉に直してもよかったはずだ。現実問題として、織田裕二は三十郎のべらんめえ調をまるで消化できていない。語尾にばかり力が入って、台詞がすべて力みきっている。力んだ結果、言葉が薄っぺらになっている。オリジナルの台詞をきちんとものにできているなら文句はないが、現実にそれが生きた台詞として喋れないのだから、こんなものはどんどん変えてしまえばいいし、変えるべきなのだ。

 映画はそれが作られた時代を映している。45年前の『椿三十郎』にはそれが作られた時代が反映していただろうし、現代の『椿三十郎』にも現代を反映させるべきなのだ。ほとんど烏合の衆と言ってもいい若侍たちを強力に引っ張っていく「理想の大人」としての三十郎に、僕は現代のリアリティを感じられない。今回の三十郎がどこかちぐはぐに見えたのは、織田裕二の言葉遣いだけが問題ではないのかもしれない。

12月1日公開 日劇PLEXほか全国東宝洋画系にて公開
配給:東宝
2007年|1時間59分|日本|カラー|シネマスコープ
関連ホームページ:http://www.tsubaki-sanjyuro.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:椿三十郎
サントラCD:椿三十郎
原作:日日平安(山本周五郎)
原作:日日平安―青春時代小説(山本周五郎)
シナリオ収録:全集 黒澤明〈第5巻〉
1962年版DVD:椿三十郎
1962年版DVD:椿三十郎〈普及版〉
関連書籍:椿三十郎OFFICIAL BOOK(ぴあMOOK)
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