やじきた道中

てれすこ

2007/11/15 楽天地シネマズ錦糸町(シネマ4)
中村勘三郎と柄本明によるニューバージョンの弥次喜多道中。
古典落語の世界をていねいに映像化。by K. Hattori

 オープニングは三味線や太鼓で奏でられる、邦楽バージョンの「ラプソディ・イン・ブルー」(作曲はジョージ・ガーシュイン)。この奇妙奇天烈な組み合わせからして、この映画が一筋縄ではいかないことがわかるというもの。流行り病で妻子を亡くした男やもめのしんこ細工職人・弥次郎兵衛と、しんこ細工の切り指で客から金をむしり取っている花魁・お喜乃が手に手を取っての東海道。ところがそこに、芝居の大失敗で江戸から逃げ出した大根役者・喜多八が加わって、思いがけない旅の道連れと相成った。

 歌舞伎界のプリンス中村勘三郎と小演劇界のベテラン柄本明が、がっぷり四つに組んだ芝居を見せるというのが、この映画最大のセールスポイント。数々の映画やドラマで俳優としてのキャリアを積んできたふたりだが、本格的な共演はこれが初めてだとか。(同じ番組に出演したことはあっても、からみの芝居がそれほどなかったらしい。)キャリアも実力も伯仲しているこのふたりがぶつかり合って、いったいどんな芝居を見せてくれるものか。それは映画を観る前から、大いに楽しみでもあったのだ。

 ところがこの映画、ふたりの共演シーンがそれほど面白くない。もちろんふたりの芸は存分に楽しめるのだが、それぞれの芝居がうまくかみ合わないまま、互いの腹を探り合っているような、牽制しあっているような雰囲気のまま映画は最後まで進んでしまう。なんだかふたりが、芝居に全力投球していないのだ。自分の側に少し余力を残して、「お手並み拝見」と相手を観察しているような気がしてならない。ボクシングで言えば最初の数ラウンドで、互いに足を使って軽くジャブを打ち合っているような状態だ。型どおりの芝居はしている。それはそれで、十分にふたりの芝居の技芸というものは楽しめる。でもそれ以上の、火花が散るような何かがない。

 これはふたりの芝居がしょせんは水と油で、うまく打ち解けられないということなのかもしれないし、喜多八役の柄本明が撮影中に腰を痛め、芝居に粘りが出なかったということなのかもしれない。もちろん芝居の質もあるだろう。腰痛の影響もあるだろう。だがそれより僕が感じるのは、やはり互いに対する「遠慮」なのだ。もっともこれは出演者同士が遠慮していること以上に、監督が出演者に遠慮している可能性だってある。この映画は主人公たち3人のエピソード以外にも多数の独立したエピソードが散りばめられているのだが、それらがいちいち、やはりどこかしら「よそ行きの顔」で取り澄ましている。

 面白い素材だし、話は痛快、出演者も豪華で、リッチな気分が味わえる時代劇だ。パート2を作るなら、ぜひ作ってほしい。でもその時は、もう少しガチャガチャした雰囲気で乱暴に、乱雑に作ってもいいような気がする。この映画に、端正なたたずまいは似合わない。今回の映画は、ちょっとお行儀がよすぎた。

11月10日公開予定 丸の内ピカデリーほか全国松竹東急系
配給:松竹
2007年|1時間48分|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.telesco-movie.com/
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