青い瞼

2007/10/24 TOHOシネマズ六本木ヒルズ(ART SCREEN)
一向に恋愛体質に成りきれない駄目な男女の疑似恋愛。
リアルすぎて涙がちょちょぎれる。by K. Hattori

 会社の社員向け抽選会で、リゾート地へのペア旅行を引き当てたマリナ。だが夫も恋人もいない彼女にとっては、「ペア旅行」というのが悩みの種。こんな時に一緒に行ってくれる親しい友人はいないし、家族ともすっかり疎遠になっている。いっそ旅行にはひとりで行こうか……。そんなとき、彼女は偶然昔の同級生だったビクトルと再会する。もっとも彼女は彼の顔に全然見覚えがないし、学生時代の話をされてもぜんぜん思い出せない。彼女は昔から、友だち付き合いが淡泊だったのだ。それでも彼女は成り行きで彼を旅行に誘い、彼もこれに同意し、旅行前に親しくなっておこうと何度かデートをすることになるのだが……。

 恋愛が苦手だという人がいる。いやそれ以前に、恋愛にまったく向いていないという人がいる。この映画の主人公マリナとビクトルも、そんな「恋愛不適合者」なのだ。それでも世の中は、人が恋をしたり結婚したりすることを願う。世の中全体が、恋人同士や夫婦向けに出来ている。ペア旅行券というのはそんなカップル文化のシンボルであり、基本的にシングルで生きていることが自然体のマリナとビクトルは、これにひどく苦しめられることになる。

 もちろんひとりでいるのは寂しいと感じられることだってある。シングル志向の主人公たちにだって、人並みの性的な願望というものはあるわけだし、できれば自分たちだって世間の認めるカップル文化の中に入っていきたいとは思っている。でも駄目なのだ。無理矢理に自分を恋愛に駆り立ててみても、どんどん白けていくばかり。デートをしても、愛の言葉をささやいても、ベッドの中で抱き合っても、残るのは砂をかむような空しさばかり……。

 主人公たちの人物像がじつによく描けていて、僕は観ていて同情するばかり。マリナがなぜ旅行にビクトルを誘わなければならなかったのか、なぜビクトルがそれを承諾したのかが、映画を観ていて手に取るようにわかってしまう。話の筋立てとしては突飛なのだが、映画を観ているとそこに突飛さを感じない。彼らはそこで、そうせざるを得なかったのだ。他の逃げ道をすべてふさぎ、主人公たちが常に最悪の選択をせざるを得なくなるところに悲劇のセオリーがある。この映画もまさにそうだ。このカップルは悲劇だ。どうしようもなく悲惨だ。こんなカップルになるぐらいなら、最後まで独り者で通した方がよほどいい。でも駄目なのだ。一度回り始めた悲劇の歯車は、もう元には戻せない。

 ビクトルがマリナに結婚を申込み、彼女がそれを承諾するラストシーンの悲しさ。土砂降りの雨がふたりの乗る車を立ち往生させてしまうことが、この悲しいカップルの先行きを暗示しているではないか。しかし世の中には、たぶん彼らと同じような悲しいカップルが満ち溢れているのだ。孤独さえ埋まれば、それが幸せだと信じたい男と女……。

 これはいい映画だが、意地悪で残酷な映画だとも思う。

(原題:Parpados azules)

第20回東京国際映画祭 コンペティション出品作品
配給:未定
2007年|1時間38分|メキシコ|カラー|サイズ|サウンド
関連ホームページ:http://www.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=5
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:青い瞼
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