ウォー・ダンス

2007/10/23 TOHOシネマズ六本木ヒルズ(ART SCREEN)
ウガンダ北部の内戦で傷ついた子供たちのドキュメント。
胸ぐらを鷲掴みにされるような衝撃と感動。by K. Hattori

 ウガンダ北部で今も続く内戦により、住まいを追われ、家族を失った子供たち。難民キャンプで暮らす彼らが、年に1度開催される国主催のダンスコンクールに出場して優勝を目指す。この映画はその練習風景から、大会前後の様子までを記録したドキュメンタリー。しかしこの映画が描き出すのは、難民キャンプに暮らす子供たちが背負わされた過酷な運命だ。大勢いる子供たちの中から、映画はひとりの少年とふたりの少女をピックアップし、彼らがなぜ難民キャンプで暮らすようになったのかをインタビューしている。そこで語られるのは、文字通りの地獄絵図だ。

 ウガンダ北部の内戦は1980年代半ばに始まった。当初は政変に伴う北部住民に対する弾圧への抵抗運動という意味合いが強かったようだが、政情が比較的安定した後も、預言者を名乗るジョセフ・コニー率いる「神の抵抗軍(LRA: The Lord’s Resistance Army)」は徹底抗戦。当時ウガンダと敵対関係にあったスーダンから武器支援を受け、不足する物資や人員を北部の村々での略奪と誘拐で補いながらゲリラ戦を継続しているのだ。悲惨なのは子供の誘拐だ。

 誘拐された子供は暴力的な洗脳教育を受けて、残忍な少年兵へと変貌する。その第一歩は、自分の肉親を殺すこと。家に押し入ったLRAの兵士は子供に銃を突きつけて、近くにあるナタや農具で父や母を殺すように命じる。これに反抗すれば、その子供はすぐに殺される。連れ去られた子供は自ら行った親殺しの不条理を合理化するために、LRAの思想を受け入れるしかない。かくして少年たちはあらゆる感情をそぎ落とした殺戮マシンになり、少女たちは一部が兵士になるが、ほとんどは雑用係や性的慰安の対象となる。90年代以降、LRAの活動は反政府活動のための戦力拡大や維持という目的を離れ、勢力維持のための誘拐そのものが目的化してしまっている。

 映画は3人の子供たちにインタビューしながら、彼らが見た地獄を映画的に再現しようとしている。ただしそれは、再現ドラマなどという陳腐な表現を使っているわけではない。子供たちが淡々と語る地獄の光景を、語っている子供自身の表情と、その地獄を子供たちと共に見たであろう風景を通して観客に伝えようとするのだ。兄と共に避難先の学校から誘拐されたドミニク。父を惨殺され、翌日には母を誘拐されて、幼い弟たちと共に難民キャンプに逃げ込んだナンシー。子供たちを逃がすため犠牲になった両親の切断された頭部が、大釜の中で煮られていた様子を語るローズ。ダンスの練習シーンでは無邪気な笑みを浮かべる彼らが、いかに大きな心の傷を受けていることか!

 大会から帰って来たときにみせる、子供たちの晴れやかな顔が印象的。彼らは自分たちの人生で、初めて自分自身を誇れるようになったのだ。その笑顔に、僕はつい涙ぐんでしまうのだ。がんばれ!

(原題:War Dance)

第20回東京国際映画祭 「ワールド・シネマ」出品作品
配給:未定
2006年|1時間45分|アメリカ|カラー
関連ホームページ:http://www.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=163
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:ウォー・ダンス
関連DVD:ショーン・ファイン監督
関連DVD:アンドレア・ニックス・ファイン監督
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