全然大丈夫

2007/10/03 スペースFS汐留
荒川良々・木村佳乃・岡田義徳が紡ぎ出す青春の終わり。
さんざん笑わせて最後はほろ苦い。by K. Hattori

 映画やテレビドラマ、CMで引っ張りだこの若手個性派俳優、荒川良々の主演映画最新作。彼の主演映画としてはこれ以前に井口昇監督の『恋する幼虫』(04年公開)があるのだが、「あちらは自主製作みたいな映画だったので、今回の映画が本格的な初主演」とは舞台挨拶における本人の話。ただし今回の映画も決してメジャー作品というわけではなく、映画全体から伝わってくるインディーズ作品特有のニオイは、多少『恋する幼虫』に相通じるものがあるように思うけど……。監督・脚本の藤田容介は99年に『グループ魂のでんきまむし』という映画を撮っていて、今回は8年ぶりの劇場作品。僕は『でんきまむし』のどこが面白いのかさっぱりわからなかったのだが、今回の映画はしっかりと楽しめた。

 荒川良々も面白かったけど、それより笑いを振りまいていたのは、世界一ドジで不器用な女を演じる木村佳乃。この人は『ISOLA 多重人格少女』(00年)や『船を降りたら彼女の島』(02年)では少しもいいと思わなかったんだけど、最近はなかなかヨイのです。『寝ずの番』『伝染歌』『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』なども良かったけど、今回は特に抜群のでき。30歳過ぎて良くなってきたので、たぶんこれから少なくとも10年ぐらいは木村佳乃に注目していてもいいと思う。

 映画は最初から最後までクスクス笑って観られるコメディなのだが、テーマになっているのは30歳前後の男女が抱える「青春の尻尾」みたいなもの。これは結構普遍的なテーマだったりする。大人になりかけた男女の、ほのかな好意や恋愛感情のすれ違いも切ない。好意が恋愛感情になっても、それを伝えられない微妙な気持ちの空回りが、意外なほど丁寧に描写されているのだ。相手の気持ちに気づきつつ、それを知らん顔して受け流したり、無視してみせる大人の「優しさ」が持つ残酷さ。映画のラストシーンで、木村佳乃に対して岡田義徳が笑いながらとぼけてみせる場面がいい。「雨音のテープ」に込められた、ふたりだけの秘密の時間。お互いに気持ちはわかっている。わかっているから、それに気づかないふりをする。

 物語自体は地味だし、登場人物にも特に派手な人たちがいるわけじゃない。基本は男女の三角関係のドラマで、男ふたりはひどく地味で、女もとても地味なのだ。それでいてこの映画がたまらなく面白いのは、ドラマの密度が濃いからだ。とにかくびっしりと埋め尽くされた小ネタの数々と、美術スタッフによる細部の作り込みの執念には驚かされるし、観ていて嬉しくなってしまう。細部を丁寧に作り込んだ結果、それが全体の統一基調になっている。

 言葉で説明しても、何がどう面白いのかよくわからないエピソードが多い。例えば蟹江敬三が店の張り紙を作っていると、突然サインペンのインクが切れる場面があるが、この面白さは映画を観ないと絶対にわからないと思う。

正月第2弾公開予定 シネクイントほか全国順次ロードショー
配給:スタイルジャム
2007年|1時間50分|日本|カラー|アメリカンビスタ|DTSステレオ
関連ホームページ:http://zenzenok.jp/
DVD:全然大丈夫
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