若いカップルの出会い、中年夫婦の倦怠期、家庭円満に見えた夫婦の危機、妻に去られた男の戸惑いなど、4つのエピソードをリレー形式(あるいは尻取り形式)で描いていくオムニバス・ラブストーリー。各エピソードの登場人物たちが少しずつ重なりあて、最後には全部がつながって大きなループができあがる。こういう形式は、各エピソードが面白くないと「形式」ばかりが先走ってあざとくなるのだが、この映画はどの話もよくできていてそれぞれに身につまされてしまう。脚本もよく練られているのだが、出演している俳優たちも上手い。イタリア映画なんてほとんど観ないこともあって、どの顔も馴染みのない新鮮な俳優たち。それが登場人物たちの初々しさや、等身大のリアリティにもつながっている。
2時間の映画に4つのエピソードを詰め込んでいるので、ひとつあたりの持ち時間はだいたい30分。映画は全体で大きなひとつの時間的流れを共有しているので、個々のエピソードで勝手に時間を早く進めたり、逆に戻したりすることはできない。映画は全体として、ほぼ同じペースで時系列に進行していく。こうした制約の中で、各エピソードは登場人物たちにとって最も劇的な出来事を描くことに注力する。その人の人生にとって、もっとも重要な時間を切り取って、凝縮した人間ドラマを展開してみせるのだ。登場人物の性格付けや過去の経緯の紹介など、短時間でさらりと処理しているのは脚本がよく練られている証拠。そこに出演俳優たちの味付けが加わって、各エピソードの中ではじつに豊かな時間が流れていくことになる。
第1話のストレートな青春ラブストーリーで幕を開け、第2話では身動きが取れない夫婦の倦怠をシリアスに描き、第3話はにぎやかな艶笑譚で盛り上げ、第4話で妻に逃げられた男のヒステリーを切実かつユーモラスに描いて締めくくる。このあたり、全体の構成テンポも悪くない。どのエピソードも基本はワンアイデア。それぞれのエピソードから1時間半の映画を作れば、ここにさらに2つか3つのエピソードを加えてストーリーをふくらませる必要があるが、この映画はそれをせずに、単刀直入にひとつのアイデアで押し通す。このあたりがまた、各エピソードのテンポを軽快なものにしているのだろう。
個人的には全体でももっとも地味で悲観的な第2話に共感したのだが、面白さで言えば、モノローグで切ない男心を描き尽くした第1話と、過去3エピソードの要素がすべて詰まった第4話が見どころだろうか。特に第4話は、世の中にこんなに悲しくて、こんなに滑稽な話はない!というぐらいによくできている。主人公の男が自分の悩みや苦しみを解消しようと真剣になればなるほど、ドツボにはまっていくのがおかしいやら情けないやら。第三者から見ればとうに決着の付いている問題に、いつまでも拘泥し続ける恋愛の地獄。身に覚えがある人は、苦笑いです。
(原題:Manuale d'amore)
DVD:イタリア的、恋愛マニュアル
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