あなたになら言える秘密のこと

2007/01/25 松竹試写室
油田火災で傷ついた男を看病する寡黙なナース。
彼女が胸に秘めた過去の事件とは?by K. Hattori

 繊維工場で働いているハンナは、有給未消化が問題となり、上司の薦めで半ば強引に長期の休暇を取ることになった。たまたま出かけた町で看護師を捜している男と出会った彼女は、自分も看護師の資格を持っていると言って海洋油田の採掘所へと向かう。少し前にそこで火災事故が起こり、作業員のひとりが死亡し、ひとりが全身火傷の重傷を負った。彼女の仕事は、その重症患者ジョセフの看護だ。彼は火災で角膜を焼いてしまい、目も見えない状態。彼とハンナの間には、少しずつ感情の交流が生まれはじめる。やがて彼は、事故で失った親友についての話をするのだが……。

 『死ぬまでにしたい10のこと』のイザベル・コイシェ監督と主演のサラ・ポーリーのコンビで作られた、観ていて胸が痛くなるような辛いラブ・ストーリー。この映画の主人公たちは自らの思いとは裏腹に、この世の地獄を体験してしまった。その地獄の記憶が、彼らの心の中にあった何かを殺す。地獄を通り抜けた今、彼らはもはや、それ以前の自分には戻ることができない。もう以前のように、生き生きとした時間を何の屈託もなく過ごすことは許されないのだ。それが地獄を見てきた者の宿命だ。

 映画ではその「地獄」が何であるのかが中盤以降まで伏せられていて、映画を観る人が少なからず衝撃を受けるようになっている。だからここでそれについて具体的に書くことはできないのだが、かつては誰もが注目していた悲劇も、時間がたてば少しずつ忘れ去られていくのだな〜と考えさせられる。しかしその悲劇や地獄は、当事者の中では今も生々しい記憶なのだ。それどころか「あのときこうしていれば」「なぜあのときこんなことをしたのか」という後悔の念が、当事者の良心を責めさいなむ。

 だがこれは、我々とは縁もゆかりもない遠い国の物語ではない。劇中ではそのためにわざわざ、ふたりの主人公に別々の地獄を用意している。ひとつは確かに、ある時、ある場所で起きた、その時に限定された固有の出来事かもしれない。同様のことが今もなお世界のどこかで起きているに違いないにせよ、やはりそれは遠い世界の出来事という気がしないでもない。(もっともその地獄を体験した者自身、その瞬間まではそれを自分とは無関係なものと考えていたのだろうけれど。)しかしもうひとつは、我々の日常にも潜んている地獄だ。ふたつの地獄は、地球の裏側にあるかのようにかけ離れている。しかしそれが「癒される事なき心の痛み」という共通項で結びついていく。

 サラ・ポーリーの控えめな演技には好感が持てるが、この映画を下から支えているのはティム・ロビンスの堅実で存在感のある芝居だと思う。物語は主人公たちが別れるところで一度終わるはずだが、そこからこの結末まで持って行くには、それなりに力のある俳優でないと説得力が出ない。ティム・ロビンスはその重責をよくこなしていると思う。

(原題:The Secret Life of Words)

2月10日公開予定 TOHOシネマズ六本木ヒルズ、お台場シネマメディアージュ
配給:松竹 宣伝:楽舎
2005年|1時間54分|スペイン|カラー|ビスタ|SRD
関連ホームページ:http://www.himitsunokoto.jp/
DVD:あなたになら言える秘密のこと
DVD (Amazon.com):The Secret Life Of Words
ノベライズ:あなたになら言える秘密のこと
関連DVD:イザベル・コイシェ監督
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