幸福な食卓

2007/01/09 松竹試写室
バラバラになりかけた家族の再生を少女の目から描く。
主演の北乃きいが爽やか! by K. Hattori

 瀬尾まいこの同名小説を小松隆志監督が映画化した、少しひねりの効いたホームドラマ。中原家は両親と兄妹の4人家族だが、父は仕事を辞めて家でぶらぶら、母はアパートを借りて別居、兄は高校卒業後に大学進学せずに農業志願、末っ子の主人公・佐和子はそんな家族に囲まれて、のんびりとした中学校生活を送っている。そんなある日の朝、父が食卓で突然「父さんは、今日で父さんを辞めようと思う」と意外な発言。仕事を辞め、父さんも辞めて、父はいったいナニになるつもりなのか?

 よそ目には、この家族は大いに問題ありだ。家庭崩壊寸前……というか、もう崩壊している。しかしそれでも、ぎりぎりのところで家族が家族としてつながり合っている危うさが、この映画の面白さだろう。大きな穴が開いて沈没しかけている家族という船。しかしまだ、完全に沈没しきっているわけではない。水を掻い出しながら、なんとか近くの港に入れるものなのか? 近くから見た悲劇は、遠くから見ると喜劇になる。この映画は対象となる一家を少し突き放して、沈没寸前の家族たちを温かいユーモアで包み込んでしまう。

 ヒロインの佐和子と親しくなる、転校生の大浦君というのがナイスキャラだ。ずけずけと単刀直入にものを言いつつ、言葉の端々から優しさと不器用な愛情がにじみ出てくる。それにも増して魅力的なのは、言葉の単刀直入さと同じぐらい、行動も素早くきびきびしていること。即断即決、思い立ったらレッツゴー!という身のこなしの軽さ。演じているのは勝地涼。これまでにもたくさんの映画に出ているけれど、今回の役が最も爽やかで印象的だった。

 しかしこの映画、登場人物のすべてが魅力的に描けているかというと、決してそうではないという欠点も持っている。主人公の佐和子は魅力的。大浦君は最高。生真面目で不器用で、自信喪失気味のお父さんにも好感が持てる。でもお母さんはどうなのか。兄とその恋人は? 特にこの映画の中では、兄の恋人である小林ヨシコという女性が、ヒロインをどん底状態の悲しみからすくい上げる役目を果たす。壊れかかった兄の心を救う役目も果たす。でも映画を観ていても、彼女は卵を割るのがヘタクソという意外に、あまりその内面がよくわからない。物語を動かしていく手持ちのカードがすべてなくなった時、物語を外部から転がしていくジョーカーのような役目を果たすのが彼女なのだが、その威力や効果にあまり説得力が感じられず、彼女周辺のエピソードが空回りしているように思う。そうなると、彼女がらみとのエピソードが多い兄も、陰が薄くなる。

 この映画で最大の収穫は、主演の北乃きいだ。彼女と勝地涼の瑞々しいエピソードだけで、この映画の魅力の3分の2は占めている。甲府でロケした町の風景も素晴らしい。地方都市には、人間の生活が感じられる。話のたたみ方にやや弱さも感じるが、見るべきところの多い映画だった。

1月27日公開予定 東劇、池袋シネマサンシャインほか全国ロードショー
配給:松竹
2006年|1時間48分|日本|カラー
関連ホームページ:http://ko-fuku.jp/pc/
DVD:幸福な食卓
主題歌「くるみ -for the Film- 幸福な食卓」収録CD:しるし(Mr. Children)
原作:幸福な食卓(瀬尾まいこ)
原作(コミック版):幸福な食卓
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