トゥモローワールド

2006/11/30 楽天地シネマズ錦糸町(シネマ4)
子供が生まれない近未来を舞台にしたサスペンス。
内容はキリスト教的おとぎ話だな〜。by K. Hattori

 イギリスの女流ミステリー作家P.D.ジェイムズのベストセラー「人類の子供たち」を、『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』のアルフォンソ・キュアロン監督が映画化した近未来SF映画。西暦2027年。人間に子供が生まれなくなって18年がたっている。未来への希望を見失った人々は自暴自棄になり、各地でテロが頻発。こうした暴力を押さえ込むためイギリスは強権的な警察国家になり、かろうじて社会的な秩序を維持している。だがその裏側では不法移民の厳重な取り締まりと、反政府組織への弾圧が行われていた。そんなある日のこと、政府の役所で働くセオはかつての妻ジュリアンが率いる反政府組織に拉致されてしまう。彼らの目的はひとりの移民の少女を、外部へと脱出させること。セオはその手助けを求められたのだが……。

 欧米の映画において、未婚の少女が妊娠したり、シングルマザーが登場したりした場合、それがキリストと聖母マリアの聖母子をイメージしていることがしばしばある。この映画もそうだ。原作は未読だが、映画の中身はかなりオリジナルになっているとのこと。少女と赤ん坊を脱出させようとする主人公セオは、キリストの養父であるヨセフの役回り。追っ手を逃れて危機一髪で脱出に成功するあたりは、聖家族のエジプト脱出の近未来版なのだ。赤ん坊は世界に平和をもたらす救世主。その泣き声を聞いて人々がほんの数分間だが戦闘を中断する場面は、長回し撮影の効果も相まって、この映画の中で最も感動的な場面になっている。イエスが大人になってからは聖書にヨセフが登場しないことから、ヨセフはイエスが幼い頃に死んだと言われている。この映画の中でヨセフの役目を果たす主人公も……。

 しかしこの映画、僕にはちょっとよくわからなかった。体調が悪くてウトウトしていたせいもあるが、そもそも子供の生まれなくなった世界で暴力や紛争が横行するという設定がよくわからない。子供がまったく生まれない世界というのは、要するに出生率ゼロのウルトラ少子化社会だ。日本では少子化が社会問題だと言われているが、それは社会全体が高齢化して労働人口が減少し、社会から活力がなくなっしまうことが問題とされているのではないのか。ところがこの映画に登場する究極の少子化社会では、人々がやけに元気なのだ。少子化社会では労働力不足が深刻化するはずだが、主人公たちの暮らす国では海外からの移民を厳しく制限している。少子高齢化社会がこのぐらい活気に満ちたものなら、少子化も恐るにたらずだろう。

 アルフォンソ・キュアロン監督は人工的なセットの中で、セットの人工的な装飾を十分生かしつつ臨場感ある場面を作るのが上手い。今回の映画では不法移民たちが収容されているゲットーの描写と、そこで起きる大規模な武力衝突がやはり最大の見せ場。長回し撮影が高く評価されているようだが、僕はちょっと技巧的すぎるようにも感じる。

(原題:Children of Men)

11月18日公開 日劇1ほか全国東宝洋画系
配給:東宝東和
2006年|1時間49分|アメリカ、イギリス|カラー|アメリカンビスタ|DTS、ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.tomorrow-world.com/
DVD:トゥモローワールド
サントラCD:トゥモロー・ワールド
サントラCD:Children of Men
サントラCD:Children of Men(スコア)
原作:トゥモロー・ワールド(P.D. ジェイムズ)
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