エレクション

2006/11/29 メディアボックス試写室
香港マフィアの壮絶で凄惨な跡目相続戦争。
これぞジョニー・トー監督の世界。by K. Hattori

 5万人の構成員を擁する香港最大のマフィア組織・和連勝会の幹部会議で、次期会長を決める投票が行われる。候補者は派手な抗争で勢力を広げてきた武闘派のディーと、温厚な人柄で年長者を敬う控えめなロク。賄賂工作で幹部会の過半を手中に収めていたディーだったが、その露骨な手段を長老にとがめられ、結果投票はロクに流れることとなる。次期会長はロクに決まった。しかし話はこれで終わらない。会長職の象徴である竜頭棍が前会長から新会長へと継承されない限り、新会長の座は盤石とは言えないのだ。ディーは前会長を襲って竜頭棍を奪おうとするが、そうはさせじとロクも動く。和連勝会内部はディー派とロク派のまっぷたつに割れ、竜頭棍の争奪戦が勃発する。だがこのままでは香港日の雨が降ると感じた警察は、ディーやロクを含めた和連勝会の幹部たちを一斉に逮捕するのだが……。

 監督は『ザ・ミッション/非情の掟』や『PTU』のジョニー・トー。いつも一筋縄ではいかない映画を作るトー監督だが、今回の映画もかなりヘンテコだ。映画は大部分が竜頭棍の争奪戦に費やされているのだが、対立の中心であるディーとロクはそれぞれ警察に捕まってしまい、自分たちはまったく手も足も出せないというのがミソ。結局この争奪戦は、周囲の人間たちが勝手にどんどん動いていく。様々な勢力が、自分たちにとって都合のいいリーダーを担ぎ上げようとする組織の力学だ。もちろん竜頭棍争奪という話自体は荒唐無稽。しかしここで演じられている丁々発止の駆け引きや、腹の探り合い、多数派工作、裏切り、分派への動きなどは、総裁選挙の際に永田町界隈で行われている議員たちの動きとうりふたつではないのか。あるいは大きな会社の中での派閥争いでもいい。組織の中で生きる人間たちというのは、どこも行動原理が似たり寄ったりなのだ。

 だが物語の中ではディーもロクも、大勢の人間に担ぎ上げられる御神輿に過ぎない。巨大組織のトップになる人間というのは、そうしたものなのだろう。自分からトップになろうとしてもトップにはなれない。トップになる人間は、下の人間から押し出されて頂上に立つのだ。ところがディーにはそれがわからない。自分の力でトップに立とうとする。だから周囲からの風当たりも強くなり、軋轢も生まれてくる。対してロクはきわめて控えめだ。周囲が自分を推しているのを十分意識しながら、機が熟してくるのを時間をかけて待っている。(政治の世界でも、大本命の候補はなかなか出馬表明しないものだ。周囲が状況をお膳立てしてくれるのを、黙ってじっと待っている。)

 この映画は最後に衝撃的な結末を迎えるのだが、これがショッキングなのは、それまで物言わぬ御神輿だった存在が、突如として意志を持った人間に変貌するからだ。トップは御神輿である。しかしただのお飾りの御神輿では、トップに立つことはやはりできないらしい。

(原題:黒社會 ELECTION)

1月20日公開予定 テアトル新宿
配給:東京テアトル、ツイン
2005年|1時間41分|香港|カラー|シネマスコープ|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://www.eiga.com/official/election/
DVD:エレクション
関連DVD:ジョニー・トー監督 (2)
関連DVD:サイモン・ヤム
関連DVD:レオン・カーファイ (2)
関連DVD:ルイス・クー
ホームページ
ホームページへ