奇跡の朝

2006/08/25 メディアボックス試写室
ある朝突然、世界中の墓場から死者が蘇ったら……。
寓話風の政治的サスペンス。by K. Hattori

 フランスの地方都市。日差しがキラキラと照りつけるある夏の朝、町外れの墓地から一斉に死者が蘇ってくる。こざっぱりとした夏服のまま、のろのろと町の中心部に向かって行進する死者の群……。この現象は世界各地で起きており、蘇った死者の数はおよそ7千万人。小さなこの町でも、およそ1万3千人の死者を迎え入れることになる。復活した死者のほとんどは、この10年以内に死んだものばかり。ほとんどが老人だが、中には若者や子供の姿もあった。

 愛する人を失った家族のもとに、一度は死んだはずの人々が帰ってくる。邦題が感動系ヒューマンドラマみたいな雰囲気なこともあって、『黄泉がえり』のような甘いファンタジー映画を予想したのだが、これはいい意味で裏切られてしまった。これは確かにファンタジー映画だ。しかしその中には、辛辣な風刺の毒がある。蘇った死者は、ゾンビのようなモンスターではない。しかし生きている普通の人間とは明らかに異なる異質な「他者」として、映画の中を徘徊し続けるのだ。人々は帰ってきた人々を受け入れながら、彼らを恐れて監視と観察を続ける。彼らは普通の人間社会の中にとけ込んでいくのだろうか、それとも、異質な何者かとして社会の中に存在し続けるのだろうか……。

 この映画から、人はさまざまな寓意を読み取ることができる。ここに描かれているのは、人種問題であり、難民問題であり、移民問題でもある。我々は「彼ら」を受け入れなければならない。「彼ら」は我々と同じ人間なのだ。「彼ら」を差別してはならず、我々は「彼ら」のために生活の場や仕事を与える義務がある。だが我々が「彼ら」を自分たちと同じ人間だと信じようとすればするほど、我々と「彼ら」との差異は目立ってくる。「彼ら」は遠くから見れば、普通の人間と変わらない。しかし近づいて見れば、「彼ら」は我々とは別の表情をしている。仕事や生活を一緒に始めれば、「彼ら」は感覚やテンポが我々とはまったく違う。「彼ら」はそれを、我々に合わせようとはしない。いつでもマイペースだ。やがて「彼ら」は、仲間同士が集まって徒党を組むようになる。「彼ら」がそこで何を話し合っているのか、何を計画しているのか、我々には知りようがない。

 この映画は2004年に製作されているのだが、その翌年の2005年、フランス全土では移民系の若者による大暴動が起きた。移民の2世3世として社会にとけ込んでいたかに見えるアフリカ系やアラブ系の人々の中に、やはり社会の中に完全にはとけ込めない鬱積が溜まっていたのだ。今年の夏にはイギリスで航空機を狙った大規模なテロが発覚して世界的な大騒ぎになったが、この事件の容疑者たちも、やはり移民系の若者たちだったようだ。移民という他者を受け入れることの、なんという難しさ……。この映画の結末は、そんな社会の現実をかなり正確に見抜いているように思う。

(原題:Les Revenants)

今秋公開予定 ユーロスペース
配給:バップ、ロングライド 宣伝:フリーマン
2004年|1時間43分|フランス|カラー|シネスコ|ドルビー
関連ホームページ:http://www.longride.jp/kiseki/
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