旅の贈りもの

★0:00発

2006/08/17 松竹試写室
行き先不明のミステリー列車で傷心旅行する大人たち。
真面目で、良心的で、退屈な映画。by K. Hattori

 偶数月の第三金曜日、深夜0時00分。大阪駅を出発する行き先不明の列車がある。目的地は西日本のどこか。この映画はそんな「架空の特別列車」で「架空の町」を訪れた都会の人々が、心の傷を癒して再び都会の喧騒へと戻っていく様子を描くファンタジーだ。ここに超自然的なことは何もない。しかしこの映画全体に漂うリアリティの欠如が、この映画をただの「いい話」で終わらない「おとぎ話」にしているのだ。

 映画には現代社会を覆うさまざまな問題や、人々の苦悩が盛り込まれている。不倫の恋に傷つく女、孤独の中で死を考える女子高生、リストラされたサラリーマン、都会で夢破れた若い女、妻を亡くした初老の男。どの人物も、切実な問題を抱えてこの旅に参加しているのだ。しかしその描き方はいかにも紋切り型で、まったく新鮮味が感じられない。型通りの問題、型通りの苦悩、型通りの強がり、型通りの悲しみ、型通りの癒し、そして型通りの結末。この映画には意外性がまったくないのだ。

 心の傷を抱えた人間が旅に出れば、おそらく旅先でいろいろな人にであって心の傷が癒されるだろう……。映画を観る人はそれを期待し、予想し、映画はまさにその通りに進行していく。もちろんこれが現実の世界なら、旅で心の傷が癒されるなんてことはまずないのだ。しかしこれは映画だ。映画の中では、通常起こらない奇跡が起きたとしても、観客はそれを許すだろう。でもその奇跡が出現するには、何らかのトリックや仕掛けが必要なのだ。この映画にはそれがない。

 これでは料理の材料だけを並べ、その後の段取りを説明しないまま「完成したものがコレです」と終わってしまう料理番組みたいなものだ。観客が観たいのは、並べられた材料が徐々に姿を変えて完成へと向かうプロセスなのに、この映画にはそれがほとんど描かれていない。

 この映画の中では登場人物がそれぞれに悩みや悲しみを抱えながらも、利害関係が対立して衝突するということがほとんどない。人間はそれぞれの立場に「大切なもの」があり、その利害が対立することから、葛藤のドラマが生まれるのではないのか。この映画では登場人物たちそれぞれのエピソードがパラレルに進行していくだけで、人物同士がぶつかり合い、火花を散らせることがまったくないのだ。一部にそうした葛藤をはらむ場面もあるが、そこにはまったく映画的なサスペンスがない。

 そもそもこれは脚本に難があって、矛盾や説明不足や頓珍漢な台詞など突っ込みどころ満載。架空の列車で架空の町への旅という設定はともかく、その町の住人たちが完全に理想化されていて生活感がなく、ディズニーランドばりの作りものに見えてしまう。ミステリー列車の車掌が「世界の車窓から」の石丸謙二郎というのも笑わせる。行き先不明という設定とあわせ、『銀河鉄道999』の車掌にも見えてしまった。真面目な映画だ。しかし面白味はない。

10月7日公開予定 銀座テアトルシネマ、テアトル梅田ほか全国
配給:パンドラ 宣伝:スキップ、プランニングOM(オム)
2006年|1時間49分|日本|カラー|ビスタサイズ|DTS-SR
関連ホームページ:http://www.tabi-000.jp/
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