時をかける少女

2006/07/07 中野ゼロホール
原作の設定を借りて作ったアニメ版の『時かけ』。
何度も大笑いして、最後はホロリ。by K. Hattori

 筒井康隆の小説「時をかける少女」は、これまでに何度も映像化されている。最初は1972年のNHK少年ドラマシリーズ「タイムトラベラー」。1983年に大林宣彦監督が原田知世主演で『時をかける少女』を撮り、これが同原作の映画化としては事実上の決定版となった。97年に角川春樹監督が撮ったリメイク版は、大林版を強く意識して別のことをやろうと努めながら、結局は大林版の影響から脱し得なかった。そして今回、「時をかける少女」は初めてアニメになった。監督は『デジモンアドベンチャー』シリーズや『ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島』の細田守。彼がジブリの『ハウルの動く城』を降板したことを残念に思っていた人にとって、今回の映画はその溜飲を下げる出来ばえとなっているはずだ。

 高校生のヒロインが学校の学校で未来人と出会い、タイムトラベルの能力を身につける。彼女は未来人に恋をするが、最後は別れの時が……という物語の骨子は原作と同じ。しかしこの映画は、小説の忠実な映画化ではなく、小説にインスパイアされたもうひとりの「時をかける少女」についての物語だ。原作者の筒井康隆はこの映画について、『初めての、本当の意味での2代目の「時をかける少女」ということ』と評している。それは単にヒロインが芳山和子から、紺野真琴という別の少女に変わったということを指してもいるのだが、映画は原田知世が演じたヒロイン像とはまったく別種の、今この時代に生きている少女を生々しく描き出すことに成功していると思う。

 これはかつての芳山和子のような少女が、今はいないという意味ではない。今回の映画を観れば、そこにはちゃんと芳山和子タイプ(というより原田知世タイプ)の、ちょっと控え目でおっとりした少女が登場する。こうした女の子は、いつの時代にもいるのだ。逆に原作が書かれた40年前にも、大林版が作られた23年前にも、おそらく紺野真琴タイプの女の子は存在した。違いは今の時代に、どちらの女の子が社会的な共感を持って迎えられるかだろう。

 ヒロインの真琴は、自分が身につけた能力をじつに自己中心的に使う。都合の悪いことが起きると、タイムリープでその出来事を“リセット”するのだ。何度もタイムリープを繰り返して世界をリセットし続ける真琴の行動は、ゲームのようで実に面白い。映画の前半は、まるでコメディだ。中でもカラオケ店のシーンは秀逸。

 しかし映画の後半はがらりと調子が変わる。タイムリープの限界が明らかになり、真琴は自分が大切なものを失いかけていることを知る。タイムリープという能力があっても、やはり人間が持てる時間は限られている。通りすぎた時間は二度と戻らない。その時間を誰と過ごすか? その時間を誰のために使うのか? それは大切な友のため。愛する人のためだ!

 ゲラゲラ笑って最後はホロリ。感動させられました。

7月15日公開予定 テアトル新宿ほか全国順次公開
配給:角川ヘラルド映画
2006年|1時間38分|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.kadokawa.co.jp/tokikake/
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