鬘かつら

2006/07/07 SPE試写室
呪いの鬘(かつら)で病人の人格が豹変。
恐くないけど描写がキモい。by K. Hattori

 新進の女流彫刻家として活躍するジヒョンは、妹スヒョンが病院から自宅に戻るのにあわせてロングヘアのカツラをプレゼントする。スヒョン本人には告知していないが、彼女の命は残りあとわずか。医者に匙を投げられた妹に、せめて最後は付きそってやりたかったのだ。だがカツラを付けたスヒョンは、とても病気とは思えないほどに体力を回復させる。それだけでなく、ヒジョンの元恋人だった美術教師のギソクに言い寄るなど突飛で大胆な行動が目立つようになってくる。いったい彼女に何が起きたのか。やがてジヒョンは、カツラに隠された恐るべき秘密を知ることになる……。

 ドロリとした触感の韓国ホラー映画。観客を生理的不快感で責め苛む演出は、「コワイ」というより「キモイ」。カツラに隠された呪われた過去の事件が映画終盤で暴かれるのだが、この真相が明らかにされてからは、残念ながらあまりコワクもキモくもなくなってしまう。呪いの正体について映画前半ではまったく取り上げられなかった人物がキーパーソンとして登場するなど、ミステリー系の映画としては反則技に出てしまったのは欠点。物語の緻密さや精巧さはあまり感じられず、ノリでなんとかしてしまおうとする雑さが見える。

 映画を観ているときは、カツラの呪いにかけられたのは妹のスヒョンだとばかり思っていた。だから映画のラストシーンで、姉のビヒョンが取った行為が僕には不可解だった。しかし後から映画の内容を整理してみると、呪われていたのは最初からビヒョンだったことがわかる。カツラの呪いの行動原理は、恋情・嫉妬・復讐だ。それと同じ原理で動いているのは、スヒョンではなくジヒョンなのだ。この呪いに捕えられた人は、誰もが恋情・嫉妬・復讐という感情の渦に縛りつけられる。カツラを無断で借りて事件を起こす、ジヒョンの友人ギョンジュもまた、カツラの呪いによって恋情・嫉妬・復讐という感情に飲み込まれた犠牲者だった。ギョンジュの起こした凄惨な事件は、そのまま映画のクライマックスに用意された事件の相似形となっている。

 ただし映画では、そうした根本的な骨組みが見えにくい。呪いのカツラで亡霊と一体化したスヒョン(妹)に観客が同情できるようにはなっていないし、ジヒョンの持つ恋情・嫉妬・復讐の気持ちに観客が共感できるわけでもない。結局残るのは、ドロリとした生理的嫌悪感のような不快感だけなのだ。こうした嫌悪感と不快感の中で最後の種明かしをされても、映画を観ているこちらはそこにある物語に同情も共感もすることはない。感じるのはひたすら継続する、嫌悪感と不快感だ。カツラに髪を提供した人物にまつわる悲しい物語も、その髪をカツラに仕上げようとした人物の思いも、すべてが嫌悪感と不快感の中に塗り込められていく。

 重要な脇役となるギソクという美術教師に、あまり魅力が感じられないのも問題。映画の中心人物としては弱すぎると思う。

(英題:Scary Hair)

8月5日公開予定 シネマート六本木
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
2005年|1時間42分|韓国|カラー|ビスタサイズ
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