レイヤー・ケーキ

2006/06/09 SPE試写室
マフィア稼業から足を洗うのも楽じゃない。
スタイリッシュな犯罪ドラマ。by K. Hattori

 麻薬仲介の仕事でしこたま儲けている名無しのマフィアが、ボスから直々に依頼された新しい仕事。それは行方不明になっているボスの友人の娘を探すことと、旧知のギャングが運んでくる大量のブツを捌くことだった。ところが持ち込まれた極上のブツは、セルビア人ギャングから強奪されたワケあり商品。セルビア人はブツを奪われた面子を賭けて、復讐のため殺し屋を雇ったらしい。ヤク中娘を探すのも、よそから横槍が入ってうまくいかない。やがて名無しの男は、自分が巧妙なワナにはめられていることを知る……。

 新007に決まって注目を浴びるダニエル・クレイグが、名無しきのマフィアを演じるクライム・サスペンス映画。『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』や『スナッチ』のプロデューサー、マシュー・ヴォーンの初監督作品だ。原作・脚本は彼と『ミーン・マシーン』で組んでいるJ・J・コノリー。もともとコノリーの原作をヴォーンのプロデュースで映画化する予定が、結局彼が監督もすることになったのだという。

 物語の面白さより、登場するキャラクターの魅力で最後まで引っ張っている映画だ。物語そのものは登場人物が多すぎて、正直よくわからなかった。しかしその多すぎる登場人物がどれもこれも魅力的だから、話がわからなくてもまったく苦にはならない。登場してすぐに消えてしまう端役レベルに至るまで、必要以上に人間臭い連中ばかりなのだ。この映画のわかりにくさは、こうした端役レベルのボリュームの厚さにある。脇役のどの人物にも脚光があたるため、どの人物が物語を引っ張る主役になるのか予想が付かず、視線が分散してしまうのだ。たぶんこれは一度観るより二度三度と繰り返して観た方が、面白さを実感できるタイプの作品だと思う。

 ダニエル・クレイグ扮する主人公は、そもそも名前がないという奇妙な男。しかしこの名無しの匿名性によって、映画を観ている誰もが彼に感情移入しやすくなっているのも確かだ。コルム・ミーニイ扮するジーンやジョージ・ハリス演じるモーティなど、ユニークなマフィアたちが何人も出てきてどれも魅力的なのだが、彼らよりは名無しの方がずっとスマートでマフィアらしからぬ風体をしている。その分、実際には犯罪に縁のない観客は、名無しをより身近に感じるという仕掛けだろう。名無しが「いかにもマフィア」になった時が、この映画の終わりなのも肯けるではないか。

 『ロック、ストック〜』や『スナッチ』の延長にある集団ドラマだが、登場人物が多い割にはエピソードにメリハリがないのも、話がわかりにくくなる原因だ。エピソードは粒揃いでどれも面白いのだが、粒が揃いすぎていて全体としては単調になってしまった。主人公に固有の名前がないことも手伝って、観ていて時々主人公の行動を見失うことがあるった。結局チャーリーはどこに言ってしまったんだ? まあ面白い映画なんだけどね……。

(原題:Layer Cake)

7月1日公開予定 ユーロスペース
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
宣伝:メディアボックス
2004年|1時間45分|イギリス|カラー|スコープサイズ|SRD、SR
関連ホームページ:http://www.sonypictures.jp/movies/layercake/
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