colors

2006/05/09 メディアボックス試写室
延々と登場人物のアップが続く実験的なタッチ。
ほとんどアバンギャルド映画だ。by K. Hattori

 柿本ケンサク監督の初長編作品。そもそも「柿本ケンサクって誰?」というレベルの話なのだが、1982年香川県出身、バンタンビジュアル研究所卒、中野裕之監督の映像ユニット「ピースブラザース」で何本かの短編映画を共同監督後、自分の短編作品をまとめた『Straw Very Short Films』を製作し、現在は映像作家として映画中心に活躍中……とのこと。柿本監督の作品はこれより前に『スリーピングフラワー』が公開されているのだが、撮影順は『colors』の方が前になるようだ。次回作は『バウムクーヘン』だそうだ。

 そんなわけで『colors』なのだが、これはかなりヘンな映画だった。映画は大きく分けるとふたつのシーンで構成され、それが交互に切り替わる。まず最初に数人の男女がそれぞれひとりずつ小さな部屋に押し込められ、隣り合う部屋と部屋が時折シャッフルされて連結が変更されるシーンが出てくる。(このアイデア自体は『CUBE』に似ているが、別に部屋の中で気概を加えられるわけではない。)小さな部屋はそれぞれ異なる色で塗り分けられており、部屋同士が隣り合ったときは互いに会話をしたり、物のやりとりをしたり、部屋同士を行き来することもできる。

 もうひとつのシーンは、この部屋に閉じ込められた人々の暮らしやこれまでの事情を、リアルな風景の中で撮影した部分。原色セットの中では生活から切り離され、背景を持たないただの人でしかなかった人物たちは、ここで生活感のある生身の人間へと変身する。この生活場面では、原色セットに登場しないそれぞれの身近な人たちも登場して、登場人物たちのキャラクターに広がりと深みを与えている。原色セット部分では互いに隣接している登場人物たちだが、生活シーンの中ではそれぞれ表面的にはまったく接点を持っていない赤の他人同士。別々の空間で、別々の暮らしをする、別々の人間たちが、原色の小部屋で出会い、この原色の小部屋からそれぞれの生活を参照しながら映画は進行していく。原色の部屋をハブにして、複数の物語が少し交差しつつ分岐しているわけだ。

 問題は原色の小部屋での撮影方法。このシーンはすべて、登場人物たちのクロースアップやバストショットのみで撮影されている。ピンクや青や黄色といった原色をバックに、登場人物がひとりずつカメラの方を向いて話をするだけだ。ツーショットの絵がほとんどないので、人物同士がどんな位置関係にあるのかがまったくわからない。部屋と部屋がどんな関係になっていて、個々の部屋がどの程度の広さなのかといったことが、まったく想像できない。これほどクロースアップが連続すると、まるでドライヤーの『裁かるゝジャンヌ』だ。ほとんど実験映画かアバンギャルド(前衛映画)! 映画のテーマやメッセージより、僕はこの手法自体が気になってしまった。風変わりな監督だ。ちょっと気になる。

7月15日公開予定 渋谷シネ・ラ・セット
配給:スローラーナー
2006年|1時間53分|日本|カラー|スタンダード
関連ホームページ:http://www.decadeinc.com/
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