テニスの王子様

2006/05/08 松竹試写室
アニメでも大人気の同名コミックを実写映画化。
強烈な個性の中学生たちに燃える!by K. Hattori

 少年ジャンプで連載中の同名コミックを実写映画化した、スーパー・スポーツ・アクション映画。同原作はすでにアニメになり、舞台化もされているようだが、実写での映像化は今回が初めてらしい。アメリカ帰りの天才テニス少年が、編入した中学で仲間たちの中で揉まれながら成長する姿を描いている。ところがこの中学テニスのレベルがトンデモナイのだ。ラケットが火花を散らし、ボールが火を噴く様子は、ほとんど『少林サッカー』。しかしそれこそ、まさに少年ジャンプ的な熱血ぶりと言えるだろう。かつて少年たちの間でメジャーなスポーツと言えば野球しかなかった頃(1970年代)、少年ジャンプには「侍ジャイアンツ」や「アストロ球団」という現実離れした熱血野球漫画がひしめいていた。「テニスの王子様」はその血統を正しく受け継いだ、超人スポーツ漫画の後継者なのだ。

 物語の舞台はテニスの名門として知られる青春学園中等部。つまり中学校である。しかしここに集まる顔ぶれは、超中学生級の強者ばかり。とても思春期に差しかかったばかりのローティーンには見えない、ごつい身体にいかつい顔が揃っている。しかしそれをいけしゃあしゃあと「中学生でございます」と言い切ってしまう図々しさが、この映画のダイナミズムを生み出している一員だろう。こんな話は最初から嘘である。しかし嘘に嘘を重ねて、その嘘の内部に矛盾がなければ、その嘘はひとつの本当になる。この映画は我々が住む日常とは異質の、それだけで完結した別世界を作っているのだ。そこには二十歳過ぎにしか見えない中学3年生もいれば、指パッチンで群がる女子学生を意のままに操るイケメン中学生も、30過ぎにしか見えない老け顔の中学生もいる。

 『テニスの王子様』をバカバカしいとかリアルではないと言う人がいるなら、それは映画のこうした約束事がわからない人だ。この世界ではどんなことでもあり得る。ボールが火を噴こうと、ラケットの網を突き破って粉々に砕け散ろうと、それはこの世界であり得ないことではない。強烈なスピンのかかったボールがネット支柱の外側を回って相手コートに突き刺さろうが、奇妙な回転を与えられたサーブボールが相手の目の前で突然消えようが、これらはすべてアリなのだ。テニスボールではなく鉄球を打ち合ってるかのような重々しいラリーの応酬も、それを心理的な誇張表現として見てしまったのではつまらない。

 主人公の越前リョーマ(なぜカタカナなのか不明)がいつもつまらなそうな顔をしているのだが、この表情こそ、この作品がまぎれもない「今」の時代を反映しているようにも思った。退屈さと倦怠感。この主人公はまったく「熱血」していないのだ。しかしクールな主人公がいろいろな経験を経て、結局は“熱くなる!”というのが、この映画の大まかな流れ。そのために1時間半の手続きが必要なのだから、時代はやはり「熱血」から遠ざかっている。

5月13日公開予定 渋谷Q-AXシネマ、横浜シネマリン
配給・宣伝:松竹 宣伝:アンカー・プロモーション
2006年|1時間50分|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.tenipuri-movie.jp/
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