BLACK NIGHT

2006/04/28 シネマート試写室
アジアの監督たちが合作した全3話のオムニバス・ホラー。
どれも少しずつパンチ不足かな〜。by K. Hattori

 日本、香港、タイ。アジア圏の新進監督3人が、それぞれ作品を持ち寄ったオムニバス・ホラー映画。香港編の『隣人』を監督したのは、『ツインズ・エフェクトII/花都大戦』のパトリック・レオン。日本編の『闇』を監督したのは、昨年『HINOKIO』でデビューした秋山貴彦。そして映画を締めくくるタイ編『記憶』の監督は、『デッドライン』のタニット・チッタヌクン。それぞれの監督は、それぞれのホームグラウンドで、自国の俳優を使って映画を撮っている。こうした作り方では各エピソードの印象がバラバラになりそうだが、この映画は「水」という共通のモチーフとミステリー仕立ての構成で、各エピソードの統一感を作り出している。

 最近のホラー映画は女性が主人公になることが多いが、この映画でもそのパターンが踏襲されている。しかもここでは、男性たちの影がひどく薄い。頼りなくて、優柔不断で、まったく女性を守ることができない男たちばかりなのだ。各エピソードはそれぞれ別の脚本家によって書かれているのだが、どの国のどのエピソードでも男が頼りないというのは、全体を統括するプロデューサーの意向なのか、それとも日本でも香港でもタイでも、男が頼りない時代になっているということなのか……。

 第1話の香港編に登場するイケメン刑事は、ふたりの女性の間でどっちつかずの態度を取る優柔不断な男。しかもアパートの隣同士の部屋に、昔の恋人と新しい恋人がいるという、何ともリスキーな状況になっても自分の態度をはっきり決められない。女性に毅然とした態度がとれないこの馬鹿男を見ていると、その男に惚れている女たちまでなんだかひどく安っぽい存在に思えてしまう。出演している3人にあまり馴染みがないことも加わって、最後は全員どうにでもなれという投げやりな気持ちになってしまった。

 第2話の日本編も、男たちはやはり頼りない。このエピソードは完全にヒロインの一人称の世界で、彼女と生活を共にする婚約者も、彼女の悩みを分析する精神科医も、彼女自律的な生活や行動にまったくコミットすることができない。このエピソードではヒロインの他に何人の登場人物が現れようと、すべてヒロインの独り語りの中に引き込まれて消えていくしかない。ヒロイン役は瀬戸朝香だが、こんな構成ならこの役は誰が演じても同じではないだろうか。映画の中で特に自分を主張しなくても、物語は完全に彼女に密着して離れないのだ。婚約者役の柏原崇や精神科医役の田口トモロヲも、特に活躍らしい活躍ができないままなのはもったいない。

 じつは僕がこの映画の中で一番面白く感じたのは、第3話のタイ編だ。映画の種明かし自体はどこかで観たことがあるようなアイデアにも思えるのだが、ストーリーの流れをバラバラに切断して、サスペンス・ミステリー風の語り口にしているのがアイデア賞。ちょっとしょぼくれた雰囲気の男も、バランスがよかった。

(原題:Black night)

6月公開予定 シネマート六本木
配給:ムービーアイ
2006年|1時間38分|日本、香港、タイ|カラー|ビスタサイズ(1:1.85)|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.blacknight-movie.com/
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