君に捧げる初恋

2006/04/06 シネマート試写室
爆笑に次ぐ爆笑のコメディ映画かと思っていたら……。
でもちょっと話は腑に落ちない。by K. Hattori

 『猟奇的な彼女』で凶暴な彼女に振り回される男を演じたチャ・テヒョンと、『私の頭の中の消しゴム』のヒロインで観客の涙を絞ったソン・イェジン共演作。このふたりは本作の前年に『永遠の片想い』でも共演している。本作は強烈な個性の登場人物たちが反則すれすれのギャグを連発する爆笑コメディに、思わず目頭が熱くなるメロドラマを組み合わせる異色のラブストーリー。映画の前半から中盤までは面白いのだが、僕は映画がメロドラマになる後半部分に、ちょっと納得できないものを感じた。

 僕はジャンル至上主義者ではないから、コメディで始まった映画がメロドラマになっても構わないし、ハッピーエンド以外の映画は認めないという娯楽映画至上主義者でもない。この映画に僕が不満を感じるのは、映画の中盤まで主人公だった人間が、終盤になって物語から退場してしまうことに違和感を感じるからだ。いや、これは違うな……。この映画は前半と後半で、主人公が交代してしまうのだ。それが僕にはちょっと気になる。

 具体的に言えば、この映画の前半は、思い詰めたら命懸けの主人公テイルが、彼女との結婚を許してもらおうとその父親に幾度もチャレンジする話の積み重ねだ。このくだりは爆笑に次ぐ爆笑でたいへん楽しいのだが、ヒロインはこうしたギャグを発生させるための言い訳になっていて、まるでキャラクターとしての魅力を発揮できていない。しかしそれがまったく欠点になっていないのが、この前半から中盤にかけての展開なのだ。この映画は父親のいない主人公が、父親代わりの恩師に挑戦する物語であり、やがて彼は恩師の思惑を越えて急成長をしてみせる。

 しかし映画の後半になると、物語の中心になるのはヒロインだ。それまでテイルという馬車馬の目の前にぶら下げられているニンジンでしかなかったイルメが、突然自己主張を始める。突如ニンジンが意志を持って勝手に動き始めるのだから、ここにギクシャクした不自然さが生まれるのは当然だろう。

 この後半がメロドラマとしてきちんとできているなら、こうした継ぎ接ぎ状態の映画も「一粒で二度美味しい!」と喜べるのだが、本作は前半の素直な作りに比べて、後半は物語の中心となるヒロインの心情に不自然な屈折があり、それが映画全体を嘘っぽくしてしまったようにも思う。あまり具体的なことは書けないのだが、ヒロインの選択肢として、本当にそれしかなかったのか?という疑問がぬぐえないのだ。それが本当の優しさなのか? それが本当に周囲の人たちを一番傷つけない方法なのか? 僕にはヒロインの行動が、あまりにも浅はかなものに思われてしまう。

 たぶんヒロインにも何かしらの深い考えがあるのだろうが、映画からは伝わってこない。単に物事を複雑にして、話の展開を謎めかせているだけではないか。ヒロインに一番コケにされているのは、映画に登場する第三の男。こんなことをする女性が許せますか??

(原題:初恋死守決起大会)

初夏公開予定 シネマート六本木
配給:エスピーオー 宣伝:スキップ
2003年|1時間43分|韓国|カラー|ビスタサイズ|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://www.cinemart.co.jp/
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