シアトルのランドロック・パシフィック銀行は、良質な顧客に恵まれた中堅の銀行だ。近年増えているシステム・ハッキングには鉄壁の防備を誇り、業界内での評価も高い。こうした実績を買われて、銀行は近々金融大手のアキュウエスト社と合併の予定。セキュリティ担当重役を務めるジャック・スタンフィールドも、日々の業務に加えての合併協議で忙しい毎日を送っていた。そんなジャックが、家族もろとも武装集団に身柄拘束されてしまう。犯人らの目的は、ジャックを脅して銀行のシステムに侵入する手助けをさせることだった……。
社会的な権力や技量を持った主人公を言いなりにさせるため、武装グループが家族を人質にとるというアイデアは『ホステージ』で観たばかりなので新鮮味がない。主人公の身辺を完全にリサーチしていた犯人たちが、銀行の合併業務の手順にまったく思い至っていなかったのも不思議。犯人側の現金強奪テクニックも、技術的にそんなことが可能だというリアリティがあまり感じられなかった。しかしサスペンス映画の面白さは、そこで何が語られているかではなく、何をどう語るかというスタイルにある。その点で、この映画はあちこちに新しい工夫が感じられて面白いのだ。
この映画でもっとも優れたシーンは、犯人が主人公に金庫室とコンピュータルームの両方を案内させる部分だ。銀行の金庫には大量の紙幣や金塊が保管されている。しかし現在の銀行業務では、こうしたキャッシュが実際に動くことはほとんどない。実際の取引はコンピュータの中で数字として扱われている。銀行の金はバーチャルなもので、犯人の計画もそのバーチャルな数字を動かすことにある。映画ではキャッシュとバーチャル・マネーを、目に見える対比として描いている。これまでにも銀行のシステムをハッキングして金を奪うとか、口座から口座に金を送金する場面のある映画はたくさん作られている。しかし犯人が銀行の金庫とコンピュータルームに直接入り込み、コンピュータの前で「俺たちが狙っている金はここにある!」と宣言する映画はなかったのではないだろうか。
犯人を演じているのはポール・ベタニーなのだが、彼が血も涙もない冷酷な犯罪エリートには見えないのがこの映画最大の弱点。対決相手が熱血漢のハリソン・フォードなのだが、この映画のベタニーはそれに対抗しきれていないと思う。ベタニーはいざという場で、やはりちょっと熱くなってしまうのだ。熱いフォードと対抗するには、最後の最後まで氷のような冷たさを維持してほしかった。こうしたことに比べれば、そもそもハリソン・フォードがコンピュータ技術者に見えるか否かなどは些細な問題。むしろ老骨に鞭打ってアクションを演じてくれるフォードに、僕は感心し、感動したぐらいだ。『インディ・ジョーンズ4』はどうなるのかな? 今回この映画を観て、それがとても楽しみになってしまった!
(原題:Firewall)
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